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つまらない 12
それから身支度を整えていると、「学校に行かれる時間になりました」という声が外から聞こえた。
透き通るような声ではない、緊張しているような強ばった声。
本当に命令通りに他の人間に引き継ぎをしたんだなと思いながらも、聞き慣れない声に耳障りを感じ、少し苛立ちを覚えた。
その返事代わりに荷物を持って、表へと赴くと、部屋前にいた代わりの側仕えが眞ノ助の顔を見るなり、顔を引きつらせたのが見えた。
すぐに何とかといったように取り繕うとしたが、それさえも気に食わなかった眞ノ助は、「……僕の顔に何か?」と訊いてみせた。
「い、いえっ! 何でもありません! それよりもお車の用意がされてますので、行きましょう!」
上ずった声を上げ、眞ノ助から離れるようにさっさと歩いていくのを、盛大なため息を吐いて、ついて行った。
「──着きましたよ」
見慣れたくもない景色を眺めていると、運転していた代わりの側仕えが扉を開けた時、そう告げた。
着いてしまった。
ため息を吐きつつ、外へと出る。
同じように車から出、登校中の男子生徒らが、眞ノ助を見るなりコソコソ話しているのが、視界の隅でも見て取れた。
どうせ、葬式の時に来た連中と同じで、佐ノ内家の良くない噂をしているのだろう。
自分たちの家柄だって、大したこともしてないし、佐ノ内 家とさほど変わらないような黒い噂だってある。それなのに、うちばかり話題にして陰で嗤っている。
何が面白いんだ。暇なのか。
「気をつけて行ってらっしゃいませ」という声を背中で聞きながら、重たい足を校舎へ目指すために、歩き始めた。
これだから、学校に行くのは嫌なのだ。もっと悪い思考に陥ってしまうのだから。
だが、今の家にいても。
春の日差しのように笑う女にも見える側仕えのことを思い出した時、ぎゅうと胸が痛む。
あの側仕えだけは、『金平糖の君』のようだから、傷つけまいと思っていたはずなのに、いとも簡単に傷つけてしまった。
違う。あれは、事故だ。偶然、手を叩いたのが、引っ掻いた形になってしまっただけだ。
だから。あれは、自分のせいじゃない。自分じゃ……。
気づけば早歩きになっていた眞ノ助は、ふとあることに気づき、立ち止まった。
普段、側仕えは白い手袋をしているはずだ。それなのに、あの側仕えはあの時はしてなく、手を晒したままだ。
だから、眞ノ助が引っ掻くことになった。
だが、しかし。何故なのか。
ここ数日程度だが、身なりをきちんとしているあの側仕えが、そんなミスをしないと思われるのだが。
すぐに氷解することのない疑問は、眞ノ助の中で渦巻いて、離れることはなかった。
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