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掃除をしましょう 1
「──坊っちゃま。起きてください。朝ですよ」
「んー……」
まだ寝ていたいのだがと、苛立ち気味に起こしたくもない体を起こす。
「おはようございます、坊っちゃま」
「……うっさい。起こす、な……──!?」
眠たい目を擦りながら、穏やかに声を掛ける人物を見やった時、一気に覚醒した。
「お、お前っ! どうしてここに!」
「どうしてと言いましても……怪我が治りましたから、こうしてまた、坊っちゃまのお世話をしに来たのですよ」
「急に来るな! びっくりするだろう!」
「それはそれは。大変申し訳ありません」
膝をついて、頭を下げるという丁寧な謝り方をしてきたが、その表情がどこか楽しげに笑っているものだから、馬鹿にされたような気がして、側仕えに向かって布団を投げた。
「さっさと着替えさせろ」
「はい、坊っちゃま」
まだ笑っている様子の側仕えに、怒りを通り越してため息を吐きかけた。
「何が面白いことでもあったのか」
「どうして、そう思うのです?」
「お前がいつまでも馬鹿面をしているからだ」
着替え終わり、朝食を取りに、外廊下を歩いている時、ぶきゃらぼうに訊ねた。
「そうですね……」とやや間を空けた後、こう言った。
「春になったからでしょうか」
「春?」
「ええ。穏やかな気候に恵まれた、最も花を愛でるに相応しい季節ですよ。想像するだけで、頬が緩んでしまいます」
「……僕は別にそう思わない」
「どうしてです?」
歩みを止めた眞ノ助に、後ろにいた側仕えが問い返す。
「別段、面白いとも何とも思わないからだ。季節なぞ、勝手に変わっているだけじゃないか」
「坊っちゃま、でしたら──」
側仕えが言いかける。だが、この話は終わりだと言わんばかりに、側仕えの言葉を遮るように、足早と行ってしまうのであった。
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