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掃除をしましょう 2
『眞ノ助。桜と言うんだ』
『さくら?』
『そう。とても綺麗だろう?』
『きれい? うーん……きれいなのは、おじーちゃんの『大事な人』だよ』
「──坊っちゃま。失礼します」
凛とした声が聞こえた直後、間もなく障子が開く音が聞こえ、教科書から顔を上げた。
「僕が言う前に入ってくるなっ」
「それは大変失礼しました。ですが、どうしても面と面向かって言いたいことがございまして」
正座をした側仕え礼をし、顔を上げた時、障子の陰から手に取った物を持って、眩しいぐらいの笑顔を向けた。
「掃除をしましょう!」
「…………は?」
バケツに掛けた雑巾、ちりとり、そして、ハタキ。それらは掃除道具一式だと分かる。
いや、何故、唐突に掃除を。
やはり、春の陽気に当てられたのだろうか。
「……急になんなんだ」
「朝食前の坊っちゃまの発言が気がかりでして。どうして、そう仰っていたのかと、私、考えましたところ、身近のこのお部屋の汚れで、そういった花を愛でる余裕がなくなってしまったのかと、思い至った次第です」
「……あ、そう……」
意気揚々と語る側仕えに、完全に相手にしても時間の無駄だと判断した眞ノ助は、「適当にやっておいてくれ。今から勉強するから静かにな」と教科書に視線を戻そうとした。
「いーえ、坊っちゃまも一緒にやって頂きます!」
「僕の話を聞いていたか?」
「聞いてますとも。こんなにも近いのですから」
「だったら、二度も言わせないでくれないか」
「でしたら、お掃除しましょうね」
言いながら、こちらにやってきては頭に三角巾を付けてくる側仕えに、何がなんでも眞ノ助と一緒にやろうとしているらしい、「……僕なんか必要か?」とため息混じりに言うと、肩を急に掴まれた。
「はい、必要ですとも。なにせ、私が勝手に捨ててはならない物がたくさんありますから」
「全ていらないから、捨てておいてくれ」
「そんなわけがないでしょう。こんなにもたくさん与えてくださった物を、粗末にしてはいけません」
めっ、と言わんばかりに人差し指立てて軽く説教をされた。
本当にいらないのに。
心の内でそう思い、無言の怒りを見せつける。
「さて、片付けていきましょう」と三角巾を付けた側仕えが、近くにあった玩具を手に取る。
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