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掃除をしましょう 3

「この車、流行ってましたよね。たしか、日本に数台しかない物と思います。玩具にあったのですね」 「……おじー──祖父が、車を買った時の記念品だ」 「では、いる物ですね」 「いや、いらない」 「えっ」 即答したことに、側仕えは一瞬固まった。 「何を驚いている」 「それは……おじい様との大切な思い出の一つを、いとも簡単に捨てようとなさるから」 盗み見た側仕えの片手程度に収まる、厳密に言うと、オルゴールであるそれの、祖父が買ったあの車は、『金平糖の君』に初めてにして、最後に会った時だ。 あの車は、祖父のお抱えの運転手に運転させているのもあり、祖父が一度も運転をしているのを見たことがないし、死後、すぐに売り払われたのか、今は違う車となっていた。 「…………今の自分にとっては、いらない物だ」 何かを言おうとして、しかし、ぐっと堪えたような、喉が鳴った音が聞こえた後、「……分かりました」と素直に引き下がった。 最初から、こちらの言うことを素直に聞けばいいものを。 聞こえるぐらいわざとらしくため息を吐いて、埃を被った散乱としているガラクタを見つめていると。 「では、こちらはどうでしょう」 両手で丁寧に添えてきた物を横目で見て、「それもどうでもいい」と視線を逸らした。 「そうなんですか……。こんなにも可愛らしい熊のぬいぐるみ、さぞやこの熊のように可愛らしかったお孫さんのために、買ってくださったのでしょう」 お労しいやと、優しく抱きしめている側仕えとは裏腹に、それを買った時であろう過去を思い起こす。 とある百貨店に、美味しい物を食べに行こうと誘われた時、道沿いの玩具屋で並べてあった物の一つであったはず。 照明の光のせいか、黒い瞳が照らされ、「買って」と訴えているように見えたからなのか、祖父に買ってとねだった。 『そんなに大きなぬいぐるみ、一人で持てないだろう。私が持ってあげようか』 『いい! これはぼくのだから、ぼくがもつ!』 『……そうか。気をつけて歩きなさい』

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