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掃除をしましょう 4
祖父が愛おしげに撫でてきた頭を、不意に触っていた。
「……? 坊っちゃま、頭がどうされました?」
「……っ、なんでもないっ!」
顔を覗き込んできた、美しい顔と合い、慌てて顔を逸らした。
まだ探ろうとしているようで、数秒見つめているようだったが、「左様ですか」と引き下がった。
心臓に悪い顔だ。
頭を触っていた手を、今度は胸にこっそりと触れた。
心音が鳴り止まない眞ノ助をよそに、側仕えは、部屋の外へと行き、掃除機でぬいぐるみに付いていた埃を吸い取っていた。
そうだと気づいたのは、掃除機の電源を入れたからだ。
突如としての騒音は、眞ノ助にとって不快極まりない。
だから、掃除するのは嫌いなんだ。
「さて、坊っちゃま。玩具を片付けていきましょう」
「まだやるのか」
「当然です。一日かけてやるつもりですから。坊っちゃまも、お部屋が広い方が過ごしやすいでしょう?」
「……だったら、掃除機を掛けないでくれ。日頃の眠い頭に響くんだ」
「そうでしたか。それは大変失礼しました。これからは、雑巾で拭いていきますので、使うことはないでしょうし」
そう言いながら、バケツに掛けていた濡らした雑巾を渡される。
「……これはなんなんだ」
「坊っちゃまも、玩具を拭いていってくださいませ。このままでは可哀想ですからね」
「別に、僕は……」
「それは、本当に本心でしょうか」
穏やかな表情から一変、真剣な眼差しを向けられ、言葉が詰まった。
「先ほど差し出した物から、それに関することを思い出されていなかったでしょうか。そうであるのなら少なくとも、全く関係はなくはないと、私は思いますよ」
「……何を分かった風に」
「そう言った主人のことを分からないと、あなたの側仕えである意味がありませんからね」
気に入らない、と言う言葉は、人当たりの良い微笑みを向けられたことによって、打ち消されてしまった。
そんな表情は本当に、反則だ。
今までに言われたことのない、こちらに寄り添う気のある言動に、若干嬉しく、しかし、それを表面化したら、何だか負けた気がして、だから眞ノ助は、誤魔化すかのように側仕えから雑巾を奪い取った。
「さて、やっていきましょう」
そのことに対して驚くこともなく、笑みを崩さなかった。
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