29 / 113

掃除をしましょう 9

「別になんともない」 「何ともなくはないでしょう! 頬が痛むのですか? 私に見せてくださいませ」 拭った後でも無意識に頬を触っていたらしい、その手に重ねるように白い手袋に包まれた手が差し出され、肩を震わせながらも、キッと睨んだ。 「それよりも! ここに置いてあった玩具はどこにやった! せっかくこの僕が片付けをしてやろうと思っていたのに、やる気が無くなってしまったじゃないか!」 涙ぐんでいた姿を見られた恥ずかしさもあり、紛らすように当たると側仕えは、「それは大変申し訳ございません」と眉を下げ、深々と謝った。 「誠に勝手ながら、坊っちゃまがお眠りになられている間に全て綺麗にし、ついでに畳を替えたいがために、別室に大切に保管してあります。坊っちゃまが当初仰られていた指示通りはしておりませんから、どうぞご安心を」 「……人の揚げ足を取って、面白いのか」 「私、何か失言をなさいましたか?」 小首を傾げて、きょとんとした表情を見せる側仕えに、不意打ちを食らったかのように心臓が高鳴り、「何も言ってない!」と顔を逸らした。 「おや、坊っちゃま。今度は顔が赤くなっておりますね。急にお熱が出ましたか?」 「部屋が暗くて、そう見えるだけだろ! 構うな! 僕は寝るっ!」 今度は額を触ろうとする手から逃れようと、さっさと布団を頭まで被って不貞寝しようとする眞ノ助に向かって、「これから、夕食の時間になりますよ! 起きてくださいませ」と側仕えが揺らしてくるが、お構いなしに強く目を瞑るのであった。

ともだちにシェアしよう!