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掃除をしましょう 13

閉じていた瞼の上に、冷たい何かが乗せられている。 それは何かと思いながら、手を取りつつ、目を開ける。 明るくなりつつある部屋で見えたそれは、手ぬぐいのようだった。 「──あ、坊っちゃま。おはようございます」 障子の音さえ気づかないほどに紡がれた、静かに囁く声に、それ以前に誰かが来たことに内心驚く。 そのことに気づくはずがない側仕えは、起き上がった眞ノ助を見て、微笑む。 「ああ、良かったです。目元が目立つぐらい腫れていなくて」 ごく自然と目元に指で触れてきて、まだ働かない頭であった眞ノ助は、一拍遅れて小さく体を震わす。 「そ、んなにも、僕は泣いた覚えがないが?」 「そうですね。気づかないうちにお眠りになられるくらいに、泣かれておりました」 「僕が誰かの前で泣くはずがないっ!」 昨日の出来事を認めたくなくて、カッとなって声を荒らげた。 キッと睨み、次の罵声を浴びかせようとしたものの、ぴくりとも笑顔を絶やさない側仕えに気圧されてしまった。 何故、何とも思わないのか。 その疑問が頭に浮かんだ時、側仕えが綺麗な唇を開いた。 「何も恥じぬことはないのです。泣きたい時は泣けばよいのです。……私も、一時期は泣く気力がないぐらいに疲弊していた頃はありましたが……」 「え?」 「誰かに縋れる相手がいないのでしたら、この私が代わりとなって、坊っちゃまの慰め役になりましょう」 「別に、慰めて欲しいなんか……」 「人は誰しも、誰かに支えられていないと生きていけないものです。ほんの少しでもよいので、私のことを頼ってください。私はあなたの側仕えなのですから」 ややはっきりと見えてきた側仕えのその表情が、どんな痛みでもまるごと抱きしめてくれるような、聖母のような微笑みと後光を差す幻視をし、気づけば眞ノ助は、手を上げそうになり、慌てて引っ込めようとしたが、すかさず取られ、そうしてそのまま側仕えの胸に顔を埋める形となった。 小さな悲鳴を上げ、身を捩ったものの、その腕の中から逃れたくない気持ちが強いからか、その腕の中にとどまっていた。 「大丈夫です。あなたは、一人ではないのですから」

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