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掃除をしましょう 17
側仕えの言葉に最後まで耳を傾けるか前に、窓の方へ視線を向けた。
可憐な少女の唇のような、淡い花びらがちらほらと舞っていた。
これが側仕えが言っていた、春を一番に楽しめるもの。しかし、今の眞ノ助に浮かれたい気分は全くない。
「綺麗ですね」
「……綺麗なのは、『金平糖の君』だけだ」
薄紅色の花びらが舞っているのを背景に、鮮やかな赤い着物を纏った美しいあの人がこちらに微笑む姿を想像する。
祖父とも昔、桜が綺麗だねという話をした際にあの人の姿が思い浮かび、ふと口にしたことがあった。
祖父はその時、どんな顔をしていたっけな。
「……『金平糖の君』……?」
そうだ。ちょうど、この側仕えのようにまさかそう言うとは思わずというような、口をあんぐりと開けた顔をしていた。
この側仕えの口からなんと?
「今、なんと言った?」
「『金平糖の君』と……」
今度はこちらが目を見開く形となった。
「何故、お前がその名を……」
「坊っちゃまがそう仰ってましたので」
心の内で呟いたはずが、無意識に口走ってしまった上に、墓穴を掘ってしまったようだ。
顔が一気に熱くなる。
「『金平糖の君』という方は、どのような方なのですか?」
「知らん! 知っていたとしても、お前なんかに教えてやるものか!」
「そういえば、清志郎様のご葬儀の際にも仰ってましたよね。私のことを見て、『金平糖の君』と。私とその方は似ていらっしゃるのですか?」
「〜〜〜っ!」
墓穴に墓穴を掘っていた。穴があったら、入りたいと思う状況に陥ってしまった。
「そんなにも顔を真っ赤にされて……。それほどまでに、その方をお慕いしておられていたのですか」
小さな子どもの「なんで? なんで?」と意味もなく訊いてくるように、不思議そうな目をして訊いてくる。
さらには何故か、ずいずいと距離を詰めてくるものだから、心臓が痛いほど脈打っている。
限界だ。
「──うっさい! 近い! それ以上近づくな!」
狭い車内であることを関係なく喚き、肩を怒らせた。
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