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掃除をしましょう 18

「坊っちゃま、車内ではお静かに」 「誰のせいでこうなったと思っているんだ!」 「そのことに関しては謝罪します。──ですが、むきになって言ってますと、その事実を認めることになりますが」 「……お前が近づいたから、こうしただけなのだが」 「そのお慕いしている方と似ているからではなくて?」 「まだ言うか! しつこいぞ!」 怒りが冷めかけたというのに。愉快そうに笑う側仕えに思わず怒る眞ノ助との間に、「坊っちゃん。家に着きました」と運転手に声を掛けられたことにより、怒りをぶつける勢いで自分でドアを開け、そそくさと家へと向かった。 「あっ、坊っちゃま! お待ちくださいませ!」 まだ車内にいる様子の側仕えが声を上げているが、眞ノ助は構わず玄関を潜り、自室へと向かう。 『金平糖の君』に対する気持ちは、側仕えが言うように”恋”とでもいうのか。 この僕が? 今の今まで祖父以外の人間に疎まれ、友人というものを知らずにこの歳まで生きてきて、そうした中でもただ『金平糖の君』に想いを募らせていた、もっというと初めて会った、ひとめ見た時から抱えていた気持ちが、”恋”と。 「……何かの冗談だろう」 部屋に入り、障子を後ろ手で閉めた時、誰かに言うのではなく呟いた。 こんな自分に、ましてや祖父の『大事な人』であった人だ。もし、この気持ちが恋だとしても、想いを告げてはいけない。 いけないんだ。 心臓を押し潰されたかのようにぎゅうと痛み、その痛みを誤魔化そうと左胸を強く掴んだ。 「坊っちゃま。お部屋にいらっしゃいますでしょうか」 廊下から、いつもならば聞き心地良いと感じる、今は聞きたくもない声が聞こえた。 「……入ってくるなっ」 「……では、こちらに坊っちゃまのお荷物を置いておきます。……あと、それと、先ほどの無礼をお許しください。あれはただ、私が知らない気持ちを知れると思い、その好奇心です」 「……好奇心って、お前……」 「それとまあ、坊っちゃまが可愛らしくて、ついからかってしまった部分もありましたが」 ふふっと堪えきれないといった笑い方をする側仕えに、そういう意図だったのかと今度は怒りを通り越して、呆れたとため息を吐いた。 祖父が言っていた可愛いとこの側仕えが言う可愛いはきっと違うのだろうと思う。祖父はこんな風に眞ノ助をからかわなかった。

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