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掃除をしましょう 19
ひとしきり鈴を転がすように笑った側仕えが、急に静かになった。
一言も断りを入れず、知らぬ間に去ったのかと眞ノ助は障子の方を振り返ると、側仕えの影があった。
「……私は、この歳になっても一度も誰かを好きになったことはありません。私に愛を囁く人はいましたが、それが偽りの愛だと分かりきってましたから、それに応じることはありませんでした」
「お前は、その……」
「はい?」
「いやいい。なんでもない」
顔を見ずとも、真剣な声音からして、その言葉が偽りではないことは分かった。だからもっと知りたいと思ったのだろう、何か訊いてみたかったが、上手く言葉にならず、はぐらかした。
そのことに対して側仕えは何か促すこともなく、「そうですか」と返した。
「私のような者が口が過ぎましたね。忘れてくださいませ。それよりも、坊っちゃま。お部屋はご覧になられましたか?」
「部屋?」
そう言われて、暗くなってきた部屋の照明を付けた。
カチカチと明滅を何回かした後、部屋が明るくなる。
「……これは」
驚きの声が漏れた。
まず、ガラクタという名の玩具があった場所には棚が並べており、それらにそれぞれ埃一つついてない玩具がきちんと並べられていた。
「これは、どうしたんだ」
「坊っちゃまが学校に行っている間、誠に勝手ながらそのようにさせて頂きました。玩具が思っていたよりも多かったため、かなり場所を取り、部屋が狭くなってしまうので、本当に不必要でしたら、処分させて頂きますが」
「……いい」
「今、なんと」
「このままでいいと言っている。……悪くないな」
ゆっくりと、整然と並べられたガラクタであった玩具達を見回す。
ゴミとも呼べたそれらは、本来の目的を思い出したかのように、照明に照らされて輝いていた。
そうして、一つ一つ祖父との思い出も甦っていく。
「お気に召したようで何よりです」
弾んだ声が廊下から聞こえたものの、それが遠くに感じられた。
一歩一歩足を踏み出した眞ノ助は、目の前へ行き、玩具の一つを手に取った。
これは出かけ先で買った物だ。あそこは意外にも楽しかったな。
これはあんなことがあった、これはこんなことがあったと一人、回顧し始める眞ノ助を、障子を少し開け、見つめている側仕えの、哀れや怒り、羨望が入り混じった目をしていたことなど、誰も知る由もない。
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