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掃除をしましょう 22
「──佐ノ内君、昨日は本当にごめんなさい!」
いつも通り、側仕えが代わりに開けた車のドアから降り、「いってらしゃいませ」と澄んだ声を背後で聞きながらも、時おりこちらをチラ見しながら何かを言い、嘲笑している同級生を視界の隅で見つつも、玄関へ向かっていた時だった。
やや俯きがちで、それに自分のところへ来る人間がいるとは思わず、一瞬誰が来て、何に対しての謝罪かと思った。
「……僕に一切話しかけないと言ったはずだが?」
「そうだけど……」
歩みを止めず、やや早歩きで行く眞ノ助に逃すまいと一緒に着いてくる。
コバンザメのようだ。
心の中でそう思い、鼻で嗤った。
と、先回りにして前に現れた特待生によって、進行を阻害された。
「邪魔なん──」
「誰にも話しかけられず、学校生活を過ごすだなんて、とっても面白くないと思う!」
一気に捲し立てるように、そして、その勢いからなのか、叫ぶように言っていたため、周りの生徒達がざわつき、やはり嘲笑じみた笑い声が聞こえてきた。
昨日よりもこの状況は最悪だ。
目の前にいるこいつを黙らせないと。
「あのな──」
「エゴを押し付けているって分かっている。でも、後々振り返ってみたら、きっと後悔すると思うんだ。あいさつする程度の関係でもいい、なんなら苛立ったらサンドバッグにするのでもいい。とにかく、佐ノ内君の眉間の皺を取ってあげたいんだ」
にっこり。悪意のない笑顔を向けられ、たじろぐ。
昨日向けてきた悲しそうな顔を見たものだから、特に驚いてしまった。
どうして、こんな自分にそんな顔を向けられる? どうして、嘲笑ったりしない?
──家柄関係なく接してくださるご学友がいらっしゃるでしょう。
昨夜の側仕えの言葉が頭の中に響く。
「……お前、僕の家がどんなのか知っているだろ」
「知っていると言えば知ってるし、知らないと言えば知らないかな」
ずっこけそうになった。
「お前、ふさげているのか」
「ふさげてなんかいないさ。僕はいたって真面目さ」
「真面目、な……。そりゃあ、特待生だもんな。こんな教育的余裕のある学校に入学する人間だから、そりゃあ真面目に決まっているな」
僕よりも、そして、表面上はという言葉は濁しつつも。
ぐっ、と押し黙った特待生の顔に、ようやく余裕の笑みが出来た眞ノ助は、「それじゃあ」と素通りしようとしたが、肩を掴まれた。
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