49 / 113
夏の風物詩と。 4
憤り、側仕えを睨んでいると、弾んだ声が上がった。
何事だと、振り返るが前に手を取られた。
「な、おま·····っ!」
「あの時は気乗りではなさそうだったけど、照れ隠しだったんだね!」
「誰が、照れ隠しなんて!」
「分かってる、分かってるよ。本当は佐ノ内君も青春を求めていたんだね。そうだよね、僕達の青春は今しかないのだから!」
雲ひとつない青空に向かって、指差す伊東に目的の場所に行く前にげっそりした。
疲れる·····。
「そうと決まったら、早く行こう! ·····あ、門限とかってあるの?」
「·····夕飯までに帰れば、別に」
「そうか! じゃあ、行こっか! 寂柳さん、佐ノ内君と行ってきます!」
「ええ、気をつけて行ってらっしゃいませ。坊っちゃま、お迎えの際にはご連絡を」
「ああ·····──っ!」
ぐんっと、取られたままの手を引っ張られ、返事がままならず、強引に連れ行かれた。
「お前! 引っ張るな! 転ぶだろう!」
眞ノ助が怒声を上げた直後、急に伊東が立ち止まった。
そのせいでたたらを踏んでいた足がもつれ、伊東にぶつかる。
「·····ねぇ。佐ノ内君って、寂柳さんのこと好きなの?」
「··········は?」
若干ひりひりする箇所に声にならない声を上げていた直後の出来事だった。
「お前、何言ってるんだ?」
「友達になった後ぐらいから思っていたんだけど、見た目とは裏腹にからかい混じりに言う寂柳さんに対して、佐ノ内君、まんざらでもなさそうに、というよりも、嬉しそうに見えるんだよね」
「僕は、そんな趣味はないぞ」
「けどね〜、さっきだって口では怒りはしていたものの、僕より当たり強くなかったし」
まるで、恋バナをする女子のごとくキャッキャする伊東に、眞ノ助は思いきりへの字を曲げた。
「·····僕を薔薇にしたいのか」
「きっとかなりの少数派の話なんだろうけど、いいんじゃないかな。学校にもいるみたいだし、寂柳さん、見た目が性差ないし。あ、もしかして、佐ノ内君には将来約束した相手がいるの!? これは、三角関係になってしまうね·····!」
「お前は何を言ってるんだ」
呆れたと言わんばかりの大きなため息を吐いて、歩き出す眞ノ助に、「まあまあ、冗談だって」と伊東がすぐに隣に来る。
ともだちにシェアしよう!