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夏の風物詩と。 5

「あと、目的地はこっちだから」と、生い茂っている方角を指差す。 その指差した先を見た途端、眞ノ助は怪訝そうな顔をした。 「こんな所に何があるって言うんだ 」 「今はこんなにも生い茂っちゃっているけど、この先に建物があるみたいだよ」 改めて目の前の光景を見やっても、誰も手入れされてないと充分に分かる、草が伸び放題で、人一人が入る隙間もない。 「本当にあるのか?」 「噂だけど、あるみたいだよ」 とりあえず行ってみようと言って、ついでに渡されたのは、軍手。 「なんだこれは」 「服装もそうなんだけど、草木を掻き分けて行くから、手が汚れたり、怪我をしないようにするため·····あ、もしかして、軍手を見たことがないって意味?」 「いや、あるし! ··········多分」 自分で装着するのは初めてだが、一応は見たことがあるはずだ。一応。 「ま、そこまでむきにならないでって。僕が先に行くから、その後に着いてきて」 苦笑しながらもその先に行こうとする伊東の後を、むくれながらも渋々着いて行った。 ガサガサ。 伊東が先頭に行って、道を作っているとはいえ、長年何もされず好き放題に伸びている雑草を掻き分けるのは限度があり、時折、草が顔につき、その度に不快指数が増していく。 「なぁ、まだなのか」 「えぇ!? まだ入ってきたばっかだけどー!」 「本当にこの先にあるのか?」 「あるはずだと思うけど·····。近くに池があってね。その周辺でも、スライダーとか競馬場とかになっていた時期があって、その訪れたお客さんの休み処として建てられたものらしいんだ」 「ふぅん·····」 ──近くに大きな池がありましてね。ちょうどこの時期に蓮の花がたくさん咲くのですよ。 側仕えが言っていた池はそれなのか。 本当にあるんだなと半ば話を聞きつつ、ふと、その時の側仕えの表情を思い出していた。 「あっ、あった! 佐ノ内君、あったよ!」 歓声を上げる伊東の声に、大きく体がビクつき、反射的にさっきよりかは拓けた場所へと躍り出る。 旅館、のようなものなのだろうか。 三階建てに、一階はロビーへと続いたのだろう、出入口の扉であった部分は破壊されたのか、扉はなくなり、やや暗い空間が広がっていた。

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