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夏の風物詩と。 6

「昼間に来て正解だね。·····昼間でもちょっと怖いかも。やっぱり、遊園地にあるようなお化け屋敷みたいで」 「お化け屋敷·····」 風が吹けば、今にも崩れてしまいそうなオンボロな小屋にいた、幽霊のような女性のことを思い出し、背筋がゾッとする。 「怖い?! 佐ノ内君も怖いと思ってる?」 「こ、怖いわけがない! 行く気がないなら帰るぞ!」 来た道を戻ろうと振り返ろうとする眞ノ助の肩を、「待って!」と掴まれる。 「ここまで来て帰るだなんてもったいない! 行く! 行くから、一緒に来て!」 僕はもうどうでもいいんだが。 その言葉を言う隙間もなく、肩を掴まれたまま、伊東と共に出入口らしい所から入って行った。 建物の周りに草木に囲まれているせいなのか、外から見た時よりも暗く感じられ、そして、崩れかけた箇所からも草が生えていた。 それらから見ても、自然に還ろうとする鉄の塊を足を踏み入れるのはだいぶ危険のように思えたが、それでも、懐中電灯を持参していた伊東は、足元を気にしながらも奥へと進んでいく。 そんなにも、流行っているという霊能者とやらよりも先に、見つけたいというのか。 なんと、子どもじみたことを。 「だいぶ建物が崩れちゃっているから、部屋らしき所を見ても何の部屋だったか分からないよね。·····あ、これ、館内案内のかな」 伊東が照らした箇所を、一緒になって見てみる。 「一階は·····ロビーと、宴会場·····? と風呂場、かな·····。外観も旅館っぽかったし、そういう所だったのかな。僕、てっきりお休み処かと思っていたよ」 そう言いながら、懐中電灯をその上を照らす。 「となると、二階、三階はお泊まりする部屋ってことだよね。部屋名は数字が多いみたいだけど、ここは名前が書いてあるね。水仙、梅、桃、牡丹、柘榴、蓮花、蘭、金木犀、菊·····お花と連想されるものだね」 「そう、だな·····」 聞いているような聞いていないような、そんな返事をしつつ、眞ノ助は凝視した。 『柘榴』 心の内で呟いたそれは、どこか懐かしくもあり、胸が締めつけられるほど苦しい気持ちになる。 初めて聞いたとは思えないこの感覚はなんなんだろう。

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