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夏の風物詩と。 7

「一応、一階をぐるっと見てから二階に行ってみよう。·····佐ノ内君、どうしたの?」 「何が」 「ううん。なんか、じっと案内板を見てるから。何か知っているの?」 「いや、知っているわけじゃない。どうでもいいだろ、早く行くぞ」 「分かったよ」 眞ノ助のことを訝しながらも、先に行く伊東の後を着いて行く。 伊藤が言っていたように、宴会場であった場所は、ところどころ畳が引っかかれたかのような傷とだだっ広い空間が広がり、大浴場は、木で作られたらしい椅子と桶がほぼ朽ちており、原型を留めておらず、景色が見えていたであろう大きな窓の外からは自然に支配されていた。 「どのくらい前に閉業したか分からないけど、かなりの荒れっぷりだね」 「そうだな」 「そろそろ、二階の方へ行ってみようか」 「ああ」 大浴場から出、改めて案内板を見直し、二階への階段を探していた。 廊下はというと、時折木の板の軋む音に大きく驚く伊東が反応を面白がり、わざと音を鳴らしている時、「なんだろう、これ」と伊東が声を上げた。 「何かあったのか」 「佐ノ内君、これ見てみて」 伊東の背後からひょいと顔を覗かせ、懐中電灯で照らした箇所を見やる。 照らしていたのは、黄色い花らしい柄の着物のようなもの。 伊東がなんとなしにそれを拾うと、埃が舞った。 「女物の着物みたい·····? 黄色い花·····菊、かな」 「菊·····さっきの部屋にもそんな名前あったよな」 「そうだね·····うん、そうだね。佐ノ内君、興味がないのかと思っていたけど、覚えるほど興味があったんだね!」 「馬鹿にしているのか」 「馬鹿にしてなんかいないよ。何に対してもつまらなさそうにしているから、少しでも興味があるようなものがあって、嬉しいと思っただけ」 ──小さなことでも、興味があったから、私にそのようなことを質問なされたのでしょう? そうでなければ、聞き流していたはずです。 伊東の言葉が、あの時言った側仕えと重なる。 そうか。こういうことも興味があることになるのか。 ただ時に流されている眞ノ助にとっては、改めて納得させられた。 「僕よりもお前の方が喜ぶなんて、変なやつ」 「変で結構」 何故か、得意げに胸を逸らす伊東に面白くないと思い、鼻を鳴らした。

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