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夏の風物詩と。10
「だからね、僕は今でも白血病で苦しんでいる人のために、ちゃんとした治療を受けさせたいなって思って、いい大学を目指すために、あの高校に入ったんだ」
いつも向ける笑った顔をして、再び歩き始めた。が、眞ノ助の目には、無理やり笑顔を作っているように見えた。
産まれた時から、家を継ぐことしか将来性がない眞ノ助とは全く持って違う。
悲しげながらもそう語り、強い心を持った伊東の姿が眩しく、眞ノ助は目を細めた。
多分、これは羨ましいと思っているのだ。
「佐ノ内君は、何かしたいことがあるの? やっぱり、家を継ぐの?」
「僕、は──」
階段を昇り切り、一階よりかは明るく感じた二階に足を踏み入れ、何もない将来を口にしようとした時。
──女性の、すすり泣くような、声を抑えて笑っているような、そんなか細い声が聞こえた。
伊東が飛び上がるぐらい──自分も同じく──驚いていた。
「え·····、僕達以外に誰かいるの·····?」
周りを照らしながら、恐怖で怯えきった声を漏らす。
その声に同調されてなのか、眞ノ助も内心、恐怖と緊張で胃が口にまでせり上がる感覚がしつつ、一緒になって辺りを見回した。
が、しかし。何度も見返しても、自分ら以外の姿を見つけることはなかった。
「あ、あのー! 誰かいますかー?」
恐怖が限界に達したのか、はたまた聞いた声が信じられなかったのか、伊東はたまらず叫んだ。
しかしながら、その声に答える者はいなかった。
「·····どういうことなの·····。受け答えをしないっていうのなら、これじゃあ·····」
震える声でその先の言おうとしている言葉は充分に分かった。
だが、このような場所に来ているのだから、不可解な現象が起きてもおかしくないのではと、頭の隅に冷静な自分がいる。
「そういったことも承知で、ここに来ているんじゃないのか」
「テレビでもそういった怪現象は、起きていたけどさ! やっぱり、実際に聞くと怖いって!」
「だったら、もう帰るか──」
『旦那様·····一緒に、寝てくださらないの·····?』
眞ノ助の言葉を被せるように、しかも、それが耳元に囁かれた。
「·····っ!?」
バッとそちらの方へ見やるが、やはり誰もいない。
「ぎゃあああ!!!!」
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