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夏の風物詩と。14
「──あの時聞いた女の人の声、なんだったんだろうね」
あの後、ずっとそうしているのもなんだと思ったのか、伊東から「僕、外に行ってるから!」と慌ただしい音を立て、去っていたのを聞き、ようやく服を整え、幽霊屋敷を出てしばらくした後、沈黙に耐えきれなかった様子の彼がそう言葉を切り出した。
「なんだって、お前……幽霊屋敷とか言ってたから、幽霊なんじゃないのか」
「まあ、普通に考えて幽霊の可能性が高いけど……え、ってことは、佐ノ内君は幽霊と……」
「言うな。これ以上言うな」
入る前よりも人だかりが増えてきた大きな公園内。やや大きな声を上げたものだから、家族連れの人達に、何事だと視線を向けられた。
さっきの出来事を思い出したものだから、余計に恥ずかしさで顔から火が出る。
隣では面白そうにニヤついている伊東のことを舌打ちしつつ、ずかずかと歩く。
「けどさ、仮に幽霊だとしたら、ものすごい発見だと思うよ! 思いが強くて、それが残留思念となった上に、色情霊に相手してもらったのだから! これは、テレビに応募しなくっちゃ!」
「……恥さらしだろ……」
興奮した面持ちで両手を拳に作り、今すぐにでも直接テレビ局に行こうとする勢いの伊東に、眞ノ助は頭を抱えた。
早くこいつをどうにかしないと、自分が起こしたことをテレビに流されてしまう。
適当に話を逸らして、忘れさせようと周りを見やった時、小さく声を上げた。
拓けた場所に行った先に、目の前に大きな池が広がっていた。
眞ノ助達からはやや遠いものの、池にはピンク色の植物がちらほらと咲いているのが見えた。
その近くには、ぽつんと柳が植わっており、風に吹かれて不気味に揺らしていた。
柳はともかく、あの池にあるのは恐らく側仕えが言っていた──。
「……蓮の花」
「ん? 佐ノ内君、何か言った?」
「あ、いや……池に何かが咲いているのが見えてな……」
「ああ、蓮の花だね。毎年、夏にたくさん咲くから、それを見に来る人が多いんだよね。僕達も見に行こうよ」
「僕は別に……」
「いいじゃない。まだお昼までには時間があるのだから、ちょっとした暇潰しだよ」
「あ……っ」
池に行くまでの道には車道が通っており、歩行者用信号機が青になった瞬間、伊東は一人で駆け出していくのを、一拍遅れてしょうがなく後を追う。
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