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夏の風物詩と。16
名字に関しては、側仕えと初めて会った時、珍しいなとは思ったことはあった。
しかし、名字をどうのこうの言うのは、お門違いかと思われる。名前は親が付けるものだが、名字は代々受け継がれるものであって、自分の代で勝手に付けられるものではないからだ。
そのことを指摘すると、「あ、そっか」と言った。
「柳っていうと、真っ先にそう連想させちゃうから、ご先祖さまどういう意味でその名字にしたんだろうと思ったら、つい口走っちゃったよ。寂柳さんに申し訳ない……」
口を塞ぎ、眉を下げていた。
のも一瞬で、「なら!」と勢いでこちらに顔を向けてきた。目を見開く。
「寂柳さんにこのことを訊いてみてよ!」
「なんで、そんなことを僕が訊かないといけないんだよ」
「いいじゃないか。寂柳さんと仲良くするきっかけにもなるよ」
「……別に、好きなんかじゃ……」
「僕は別に、好きとは一言も言ってないけどなぁ」
「!」
墓穴を掘った。
にんまりとする伊東と目が合い、カッと顔が熱くなる。
「うっさい! さっさと食べに行くぞ!」
「えぇ〜? 僕はそこまでお腹は空いてないけどな〜」
駆け足気味で、ともかく伊東から逃れようとする眞ノ助の後を、ゆったりとした足取りで歩いていくのであった。
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