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夏の風物詩と。17
ほぼ一方的な伊東の賑やかな──眞ノ助にとっては騒がしかったが──昼食を取り、同じ商業施設内の店を周りたいという伊東に付き添うことになった。
ちなみに、二重な意味での暑さに耐えきれず、側仕えに持たされていた替えの服に着替えた。
どこかに出かけ、商業施設に行くのは、祖父が正気があった頃以来だと思いながら売り場を周っていた。
そうしているうちに、あっという間に帰る時間になっていた。
からかい半分、促し半分の伊東をよそに、なるべく意識しないようにバッグから携帯電話を取り出す。
「あ、今年の春辺りに出た新しい携帯電話だよね?」
「ああ、あいつが持っていけって 」
「いいなぁ。僕も欲しいけど、公衆電話があるからいいだろって、父さんが言うからうちにはないんだよ。父さんが仕事で、ショルダーフォンは使ってるから、それはあるけど」
「ふーん……そうなのか」
適当に相槌を打ち、耳に電話機を当てる。
きっと眞ノ助の側仕えであるから、必ず出るだろう。けれども、出ないで欲しいと思いながら出るのを待つ。
『──はい、眞ノ助坊ちゃんですか?』
無機質な低い男性の声。運転手の声だ。──あの側仕えじゃない。
出ないでくれとは思ったが、まさかそうなるとは。
言葉が詰まり、なかなか返事をしなかったからか、『もしもし』と言われ、ハッとし、短く来るように伝えると、眞ノ助からすぐに切った。
「……寂柳さんじゃなかったんだ?」
「……あ、あぁ。まあ……」
「そんなにあからさまにがっかりしないでって。きっと、忙しくて代わりに出てもらったんじゃない?」
別にがっかりしてなんか。
そうと口にする気力がなく、アスファルトを見つめていた。
そう言われて、自分が落ち込んでいるのだと、何故こんなにもがっかりしているのだろうと、改めて思い直す。
自分の側仕えなのだから、どんな状況でも出るべきだと思っているのか。伊東が四六時中、側仕えのことでからかわれていたから、意識してしまったのか。
それとも──常にいるのが当たり前であったから、単に声が聞きたいと思ったのか。
自身の素直な気持ちが分からず、腹の中で黒いモヤが渦巻いているような感覚を覚え、気持ち悪さを感じているのであった。
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