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夏の風物詩と。18

玄関を開けるや否や、側仕えの姿を捜していた。 まずは、眞ノ助の部屋にいるのかと思い、その方向へ足早と向かっている途中。 微かに歌声が聞こえた。 思わず足が止まり、その声をよく耳を澄ませてみると、おおよその方向が分かり、そちらに足を向け、その声をたよりに歩を進める。 進んでいくうちに段々と歌声が大きく聞こえてきたのと同時に、その曲に聞き覚えがあった。 祖父がよく聞いていた曲だ。 元々音楽にも興味がなかった眞ノ助だが、祖父が若い頃に聞いていた曲らしく、よく流していたものだから、聞き馴染みがあった。 しかし、前述の通り祖父が若い頃の曲だ。その歌声の主は、やや若い男性のように聞こえるが、誰が歌っているのか。 しかし、その答えはすぐに分かった。 かつての祖父の部屋であった一室に、ありえない人物がこちらに背を向けて座っていたからだ。 「──……寂柳」 かつて祖父の愛用していた蓄音機と、歌声に混じるように呟いたが、呼ばれた本人は気づいたらしく、細い肩が小さく反応を見せたかと思うと、音楽を止め、こちらに体ごと振り向いた。 「あ、坊っちゃま。お帰りなさいませ。そして、申し訳ありません。こちらの部屋を今日中に整理するようにと命じられまして、代わりの者を迎えに寄越しました」 綺麗な所作で深々と頭を下げる側仕えの姿を、一瞬息をするのを忘れそうになっていたが、我に返った。 「……いや、お前が迎えに来るとは一言も言っていなかったからな。迎えに来るのは誰だって良かったんだ」 「左様でございますか。それならば良かったです」 次に顔を上げた時には、誰にでも見せるような愛想笑いを見せる。 それに何だか怒りを覚え、少々怒りを含んだ口調をする。 「だが、お前の主人が帰ってきたんだ。玄関で待っていてもいいだろう」 「ああ、それは配慮が欠けておりました。以後気をつけます」 胸に手を添え、軽く会釈するのを「分かったならいい」とその話題を終わらせた。 「それよりも、今お前が歌っていたのか?」 「ええ。勝手ながらに清志郎様の物を使用させていただいた上に、気分が高揚して、つい口ずさんでしまいました」 お恥ずかしいところをお見せしましたと、少し眉を下げ、困ったような笑いを見せる。

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