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夏の風物詩と。20 ※自慰

「ふぁ、んっ、あ……っ!」 金縛りに遭ったかのように一瞬身体が強ばった直後、下腹部に溜まった精が放たれた。 だが、二度目の射精であるからか、さほどの量は出なく、それでも手を汚したことには変わらない。 は、と短い熱い息を吐いた眞ノ助は、脱力した身体を障子に預けた。 やってしまった。 短い呼吸を繰り返して、呆然とする。 勃つことなんて、ただの生理現象であって、機械的に処理してきたものだったのに。 己にまだ欲があったらしく、しかもそれが、長年想い続けていた人で抜いてしまうだなんて。 これからどんな顔をして、側仕えと接したらいいのか。 「坊っちゃま。夕食の時間になりました」 その場に飛び上がらんばかりに驚いた。 今、一番会いたくない人の声だ。 ついさっき、自分で呼ぶように命令したのだから来るのは当然だが、来て欲しくない。 ティッシュで拭こうと慌てて在り処を探す。 「坊っちゃま、どうされたのですか?」 「あ、いや! 別になんともない! 分かったから、先に行ってくれないか。……手を洗うのを忘れていて」 「帰ってきてからすぐに手を洗わなかったのですか。そんなにも私にすぐに会いたかったのですか?」 「な……っ、そういうわけじゃ……!」 ティッシュで拭いていた手が止まり、障子に映る側仕えの影の方向を思わず見てしまった。 くすくすと上品に笑う側仕えの声が聞こえ、瞬時にあの幽霊屋敷で一番最初に聞いた、すすり泣くような、声を抑えて笑うような、その声のことを思い出してしまい、頬を熱くさせる。 何でもかんでも結びつけるものではない。 意識しないように拭くことに集中する。 「では、分かりました。食堂の前におりますので、お早めにお願いしますね」 「お前の名前の意味を知りたいんだが」 ああ、分かった。 そう返事をしたはずだったものだから、側仕えからの素っ頓狂な声が聞こえてきたことに眉を潜めた。 「なんなんだ」 「あ、いえ。坊っちゃまが私の名前の意味を知りたいと、何の脈絡なく仰ったので」 ズボンを履いた直後、立ち止まった。 「僕、そんなことを言ったか?」 「ええ、はい……」 困惑しきった側仕えの声が聞こえた。 自分も同じくらい困惑している。 何故このタイミングで無意識に口走ったのだろう。

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