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夏の風物詩と。21

「坊っちゃまが知りたいのでしたら、お答えしますが」 「手短に頼む」 夏休みが終わって、学校に行った時、伊東にしつこく言われそうだからと、事の発端となったことを自分に言い訳をして。 「……分かりました」と少し遅れて返事をした後、側仕えは話をした。 「この名前は、本当の名前ではありません」 突然の予想だにしない発言に、聞き間違いかと思った。 小さく「えっ」と聞き返すと、「そう驚かれるのは、無理もありませんね」と穏やかなそうな声音の中に、困ったような声で発した。 「坊っちゃま達が行かれたあの池の近くに、柳があったでしょう? あそこに、幼かった私は捨てられていたのです」 「……どうして、そんなことを」 絞り出すような声で訊いた問いに、「単純に、いらないからですよ」と小さく言った。 視界がぐらついた。 そんな呆気ない理由で、子どもを捨ててしまうものなのか。 いや。 自分だってそうじゃないか。ただこの家を継ぐだけのために産み落とされ、そうじゃなければ、在りし日の側仕えのように捨てられる。 かつて、その場限りで買ってもらい、すぐに飽きて放置していた玩具のように。 そう思いたった途端、全身鳥肌が立った。 そんな扱われ方をされるのは、嫌だ。 呆然と立ち尽くす眞ノ助の耳に、さらに気になることを言った。 「生きていく術を知らなかった私に、ある人が手を差し伸べて、今の名を与えて下さり、今は幽霊屋敷と呼ばれている──かつては、『華楼』という名前だったあの旅館で働くこととなったのです」

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