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柘榴 2

「──でさ、朝の話なんだけど」 昼休み。食堂で昼を済ませた後、伊東が「人気のない所がいいよね。また大声上げるかもしれないし」と言って、訪れたのは、体育館裏。 たしかにこの辺りであれば、授業以外誰も訪れない可能性が高いし、伊東がまた叫んでも、恐らく誰かに気づかれないだろう。 出入り口前の数段の階段に座ったタイミングで、伊東がそう話を切り出したことで、あの日に無意識に訊いてしまった寂柳のことについて、話をし出す。 話し終え、伊東の方を見ると、自分と同じように青ざめた表情をしていた。 無理もない。伊東の場合は親に愛されていたようであるから、そのような状況は全くもってありえないことなのだから。 どちらとも次の話を進めようとしないでいると、突然、伊東の瞳が潤んだかと思うと、雫が一筋流れた。 「は……? お前、いきなりどうしたんだ」 さすがに、何の脈絡もなく泣かれるものだから、眞ノ助は驚いた。 すると、当の本人も驚いているらしく、「あれ?」と涙を拭った。 「幼い頃から、そのような状況を強いられて親の愛情を知らずに育ったんだと思ったら、感情が昂ってしまって……。恥ずかしいところを見せてしまったね」 照れ笑いし、頬をかいた。 「それにしても、こんな身近にあそこのことを知っている人がいるだなんて思わなかった。『華楼』という旅館……。寂柳さんの年齢は?」 「27らしいが、本当かどうか」 「どうして年齢が曖昧なの?」 「それは……」 あの時の出来事を話すと、伊東は「なるほど」と相槌を打った。 「無意味にこの年齢になってしまった、か……。たしかに、幼い頃から働きづめだったってことだもんね。年齢なんて気にしていても意味がなかったってことだよね。……ほんと、苦労なさって……っ」 声が震えていると思ったら、また泣き出すものだから、「……またか」とため息を吐いた。 将来、今父がしている仕事を継いで仕事をすることとなっている眞ノ助だが、今の年齢ですら働かなくとも、充分に余裕のある生活を送れているものだから、やはり理解出来ない状況だ。

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