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柘榴 3
「でも、でも……。そのような人が、どうして佐ノ内家に使用人として来たの?」
「祖父のちょっとした知り合いでもあるし、父の知り合いの伝手で紹介されたようだ」
そう答えて、眞ノ助は違和感を覚えた。
ちょっとした知り合いの関係であることを指摘した際、眞ノ助と同じように、孫のように可愛がってもらっていたと言っていた。
そういった関係であるから、特別に使用人として佐ノ内家で雇われたと考えられる。
だとしたら、父が言っていた「知り合いの伝手」というのは、祖父からの命令で、と言い換えられる。
そうだとしたら、あの側仕えと祖父、二人が出会ったとされる場所は──。
「……あの旅館のこと、もっと詳しく調べられないか?」
「え? いきなりどうしたの」
「あそこのことが分かれば、寂柳 と祖父が出会った理由が分かりそうな気がして」
「でも、ただのお休み処なんじゃないの」
「そのただのお休み処で働いていた従業員と、そこまで親密な関係になるのか? 頻繁に行っていたとしても、そんなことはありえるのか? 僕はそういった知識もないし、人に興味がないから、そんな所で働く人の顔すら覚える気もないが、祖父ならばありえる可能性がある」
「それは……なに?」
──……何人もの愛人がいたみたいね。
不意に、葬式の時に聞いた言葉が思い出される。
しかし。その意味も含めて、眞ノ助は頭を振った。
「·····"人の良くないことを言うのは、自分の品位までも下げてしまう"だろ? だから、弔った人でも良くないことは言えない」
眞ノ助が逃げるようにその場から立ち上がると、「分かったよ」と隣も立ち上がった。
「余計な詮索はしない。元々あそこのことは気になっていたし。調べてみるよ」
「……ああ」
間を空けた後、短く返事をし、歩き始め
た時、はた、と伊東が立ち止まった。
「どうした?」と急かすと、伊東は言った。
「佐ノ内君がこうして、僕に頼み事をするだなんて、初めてだなって思って。僕のこと、友達だと思ってくれているから?」
「なわけないだろ。あいつと同じで、命令だ」
「全くもう……素直じゃないんだから」
その時、予鈴が鳴り響いた。
「あっ、思っていたよりも喋りすぎちゃったね! 走らないと遅れるかも!」
「ちょ、お前っ!」
急にぐいっと腕を引っ張り、走るものだから、伊東もろとも転びそうになるのをどうにか踏ん張り、一緒に走らざる状況へとなっていた。
側仕えが、気になる終わり方で無理やり終わらせたのだから、それが返って好奇心をそそられるきっかけとなったのだ。
どんな結果になっても、「ああ言ったお前が悪い」といつものように怒ってやる。
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