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柘榴 5

「おは──うわっ、佐ノ内君その顔どうしたの!」 人の顔を見るなり、大声を上げるものだから、不愉快だと眉を思いきり潜めた。 「寝れなかったんだ。全く」 「寝れなかったって……。遅くまで何かしていたの。あ、僕みたいに怖いものに興味が湧いてきて、夢中になって読んでいたら、いつの間にか朝になっちゃってたとか?」 お前は何しているんだ。 わくわくとした面持ちでそう語る伊東に、馬鹿らしいと言い返そうとした。が、言う気にもならなかった。 それよりも今は、少しでも寝ていたい。 「どこかに消え失せてくれ」とあしらおうとするが前に、「あの例の旅館のことで、少し分かったことがあるよ」と耳打ちしてきたことにより、少し眠気が無くなっていた。 「これを見て」 そう言って、クリアファイルから取り出したのは、スクラップ記事。 その記事の大きな見出しを見ると、『芸者刺殺 犯人心中』というその隣に、『違法営業で家出少女達を接待させていたか』と大文字で書かれていた。 「父さんの知り合いで、新聞会社で働いている人がいて、仕事がてら調べてくれたんだ。あそこの話をしたら、あまりいい顔をしなかったから、まさか調べてくれるとは思わなかったんだけど……」 段々と語尾が小さくなってくる。 恐らく、好奇心旺盛な伊東だから納得のいくまで探すと思ったから、伊東の父はその記事を見せたのだろう。 しかしまさか、そのようなことがあったとは。 「ただの旅館かと思っていたら、まさかのそんな所だと思わなかったよね。だから、あんな人気のつかない所に……けど、おかしいよね」 「……何が」 記事を見つめたまま返事をする。 すると、伊東が何故か言いづらそうに答える。 「寂柳さんって、男性だよね? 芸者って男でもなれるのかな」 「僕がそんなことに詳しいわけがないが、そうじゃないと思うが」 「だよね」 苦笑気味に言う伊東の声を遠くに追いやりながら、眞ノ助は『寂柳蓮』という文字を探していた。 けれども、そこで働いていたらしい、しかも、少女達の本名が載っているだけで、その名はなかった。 ということは、そもそもあそこで働いていたことは嘘だったのか。それとも、この事件が起きる前に辞めてしまったのか。 あの名前は偽名だったということから、本当はこの載っている名前の中にあるのか。

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