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柘榴 6

──いや。これではっきりと分かったじゃないか。 伊東から見ても、性差を感じられない容姿。それから鑑みるに、あの側仕えはもしかしたら。 「……その建物に行く前に、佐ノ内君が寂柳さんのこと好きなんじゃないのかと訊いたことがあるよね」 「……いい。これ以上言うな」 「……佐ノ内君の中で答えが出たのなら、僕はこれ以上このことについては追求しない」 そのことに対しては何も返事をせず、そのまま、机の上に置かれたままとなった記事(紙切れ)を見つめる。 実の親に捨てられ、『寂柳蓮』としてあの旅館に働くこととなった。 記事に書いてある通り、接待をしていたのならば、何人もの愛人がいたという祖父なら、足繁く通い、その寂柳と出会い、佐ノ内家に働くことを斡旋したことだったら、充分辻褄が合う。 そうして、さらに言えば『金平糖の君』と非常によく似た寂柳がもし、祖父の愛人の一人だとしたら。 ──そう考えるだけで、吐き気にも似たものが込み上げてくる。 やはり、出会った時から祖父のものであって、自分がこの想いを伝えることは出来ない。 いや。この気持ちは伊東が茶化すように言ったから、そう錯覚しているだけで、実際は違う感情だろう。 違う。違うんだ。この気持ちは、違う。 もしそうであっても、釣り合わない関係なのだ。一介の側仕えに主人がそのようなことを抱くのは、随分おかしい。 自分の本当の気持ちが、偽りの気持ちに埋もれていって、今自分はどんな気持ちなのか分からなくなってしまった。 けど、もうこれでいい。これ以上面倒なことを考えるのは、自分らしくない。 どちらとも何も言えずに、周囲のざわめく声に埋もれてしまうのであった。

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