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柘榴 13
伊東がふいに目を閉じる。
その言葉も手伝って、母のことを弔っているように見えた。
少しした後、開いた伊東が話を再開する。
「けど、それを聞いた僕は、どうして母さんがそんなことを言われなきゃいけないんだ、そんなことを言う父さんなんて嫌いだって泣きながら言った時、母さんがさっき言ったことを変わらない、優しい手つきで言ったんだ」
ふっと、泣いていた表情に笑みを混ぜる。
「きっと自分は、この先長くもないのだから、自分よりも長く一緒に暮らすことになる父さんのことを悪く言わないようにと、そんな意味も込めてそう言ったのかなって、あの言葉を思い出す度にそう思ってくるよ。だから、悪く言ってしまった僕の罰でもあり、戒めでもあるんだよ」
「……そうか」
伊東が口を閉ざす。途端、周りの喧騒が一気に聞こえてくる。が、今の眞ノ助は全く気にならなかった。
それよりも伊東の話を聞いて、その程度でも罪だと言うのならば、眞ノ助のことを悪く言う同級生らはみんな罪人で、何かしらの償いをしなければならないということになる。
その時思い出した、幽霊屋敷と呼んでいたあの建物内で、伊東の戒めの言葉を言うきっかけとなった、眞ノ助が自身を悪く言うことも罪となる。
その罪を償うためには、伊東が勢い任せで言った『伊東に好きになってもらうこと』
産まれてから一度も、誰にも好かれたことがない眞ノ助のことをどう好きになっていくのか。
こんなにもひねくれ者で、罪を罪だとも思ってない、哀れな人間のことを。
やっぱり、こいつはもの好きだ。
心の中で眞ノ助は嗤った。
それにしても、伊東の罪の話を聞いても、あの側仕えは何の罪を犯したのかという疑問が残る。
人のことを悪く言った、というのはしっくりとこない、他のような何かの罪。
あの匂いがし出したのは、本当につい最近のこと。となると、今ぐらいの時期になると思い出してしまう罪なのだろうか。
それでも、その匂いを纏う意味は何。
「……お前がその母に言われたことを戒めているのならば、匂いを付けて戒める奴もいるってことなのか」
「匂い? 匂い、ねぇ……。うーん……、まあ、匂いで思い出されることがあるから、それで罪を意識しているのかもしれないね」
「そうなのか」
あの匂いが、祖父からも匂っていた柘榴ならば。祖父に関係する罪となる。
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