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柘榴 14
「ちなみにどんな匂いなの?」
にんまりとした顔をして訊いてくる。
いつもの調子に戻ってきたなと、どことなく安堵を覚えながらも、表面では不快そうに眉を潜め、「言うものか」とそっぽを向く。
「いいじゃないか。それから寂柳 さんの秘めていることが分かるかもしれないのに」
「いい。自分で見当がついてる」
「そう? 佐ノ内君がそう言うのなら、そこまで言及はしないけど? 本当に分かっているのかなぁ」
「何が言いたい」
「いやぁ? 別にぃ? 僕よりも長く一緒にいるのだから、少しでも寂柳さんの気持ちを汲み取れるのかなと思っただけだよ?」
人を馬鹿にしているような顔をしたまま席を立つと、トレーを持って片付けに行こうとしていた。
眞ノ助は、ムッとした。
たしかに自分の方があの側仕えと一緒にいるから、伊東よりかは分かっている。が、側仕えが自身の気持ちよりも主人の気持ちを最優先するのが当たり前であり、眞ノ助の性格も災いして、思っていた以上にあの側仕えのことを知らなかったことに対しても、腹を立てた。
あの側仕えが、自分の過去のことを話したことも、たまたまあの幽霊屋敷と呼んでいた建物に行ったきっかけがあったからで、でなければ、名前のことを訊くことはなかっただろう。
伊東に一言文句を言ってやろうとその後を追いかけようとした時、伊東が振り返った。
「でもね、どんな罪を抱えていたとしても、寄り添ってもらいたいと思ってしまうんだよ。それが例えエゴだとしても」
運転手に車のドアを開けてもらい、門を潜り、玄関に入ろうとした時、真横から声がかかった。
その方向へ振り向いてみると、庭先で立っていた側仕えと目が合い、その瞬間、側仕えはゆっくりと頭を下げ、こちらに向かってきた。
ふわっとあの匂いが漂ってきたことで、眞ノ助は身構える。
「このようなところから、失礼しました」
「に、庭で何をしていたんだ」
「人様の家に不法侵入してきた浮浪者が、水道水を飲まれていたので、注意していたところです。……長者番付で知ったようですが、いい迷惑ですね」
そう言いながら、うんざりとした面持ちで小さくため息を吐いた。
そのような表情を見るのは初めてであったため、虚をつかれながらも新鮮だと魅入ってしまった。
「それは、罪だな」
「ええ。『こんな立派な家に住んでいるんだ。ちょっとぐらいいいだろ』と、なんとまあ自分本意なことを申されまして。辟易します」
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