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柘榴 26

自分で訊けばいいものを、伊東がしつこいぐらいに代わりに訊いてくれと言われ、仕方なしに、実際には無意識に訊ねた時、側仕えが、『寂柳蓮』という名は偽名であるということを言った際に、「親に捨てられた」と答えていた。 幼かった寂柳にとっては、欲しかったはずの金との引き換えに、親と引き離されてしまったのだから、捨てられたのも同然ということなのだろう。 現に、小さく頷いた側仕えは続けて、「その働き先である『華楼』に入った瞬間、主人の態度は変わり、『お前は一生、男の奴隷になるんだ。ここからは出られない』と怒鳴り口調で言われました」と言っていた。 「今思えば、髪を切るお金がなく、伸ばしっぱなしの髪のせいで、私が女だと思ったのでしょうね。急に足を開かれた時に、『商品にならない』と急にぶたれたのですから。ですが、当時の私が知る由もなく、急に意味の分からないことを言われた上に、手を上げられたことがなかった私は、ただただ怖くて、泣いてしまったのですが、言葉にするのも嫌なぐらいな罵声を上げて、体中が傷だらけになるぐらい痛めつけられました」 当時の痛みを思い出しているのか、下唇を噛みながら、自身のことを抱きしめるかのように、両手でさすっていた。 「そんな主人の機嫌を損ねてはいけないと、何も分からないながらもとにかく、私の世話人だという、年上の男の子に、様々なことを教えてもらいました。それらが今後、何に使われるかなど、地獄を見ることになるだなんて、幼くも、そのような所にいなければ縁のないことですから、何もかも知りませんでした」 段々と険しい表情へと変わってくる。それが、眞ノ助にとっては想像出来ない、寂柳の悪夢を密かに物語っていた。 「辛くも痛い日々を送りながらも、何の役に立つのか分からない日々の成果が出たのか、水揚げ──初めて、お客さんと寝所を共にするという、一番の目的であるお仕事が来たのです。半ばに説明されていなく、理解が出来ぬまま、さらには"女"として振る舞うため、今のようにココを縛り付けたまま、"旦那様"と対面した時、花を散らされました。……いわば、主人の言う『男の奴隷』になったと等しい意味合いです」 「女の見た目をした男だったのかと、初めは殴られましたが、女性のように振舞ったら、気を良くされましてね」と側仕えは何か言っていたが、眞ノ助の耳には入らなかった。

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