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柘榴 28
「そうして、数分 可愛がられ、繋がったまま、こう告げたのです。──私の家を潰したのは、この自分だと。そして、ここに来るように手引きしたのも、酷い仕打ちをさせたのも、全ては一目惚れした、綺麗で純粋であった私がどのように穢れて、自分の手に堕ちていくのか、この目で見たかった、というのです」
じわじわと静かな怒りが肌で感じる。
無理もない。相手の感情を無視し、その男の身勝手な行動一つで、大切であったはずの家族と共に、先祖代々から受け継いでいた家柄と豊かな暮らしが、一瞬にして消し去られたのだから。
同時に、その常人では考えられない愚かな行為をした人物を、眞ノ助は充分に知っていた。
やっぱり、償っても償いきれない。
「私は、私の家族は、この男のせいで落ちぶれることになったのだと、真っ白になりかけた頭でどうにか理解し、同時に、どう殺してやろうかという思考に陥り、すぐに手にかけようと思いましたが、それでは復讐には足りないと思い、時間をかけてずっとその手段を、愛人として身請けされてからも考えてました」
抑えきれないと言わんばかりに、首元を自身で掴んだ。
その行動といい、表現し難い恐ろしい表情に、見るに耐えなかった。
「その手段を実行に移していた時、可愛がっている孫のために、側仕えとして成し遂げろと言われ、『華楼』から見えた景色から、『寂柳蓮』という新たな名を与えられたということなのです」
口を閉ざす。
緊張で鼓動が速くなっていたのを感じながらも、気をしっかりとしないと、このまま意識を飛ばしかねなかった。
想像を絶する終わらない悪夢の話に、しばらく思考を停止し、しかし、思考が追いついたとしても、何と声を掛ければいいかなんて、何も思いつかなかった。
そうしているうちに、膝上に乗せていた両手が、着物をきつく握りしめているらしく、小さく震えていた。
ハッと、顔の方を見やると、唇が白くなるほど強く噛み、必死に何かを堪えている側仕えの姿があった。
「寂……──」
「……ねぇ、私がどれほど、慰みものにしかならない卑しい身分か……お分かり、でしょう……っ?」
向けられた顔。眉をきつく寄せ、堪えきれないと、一筋、また一筋と、雫が頬を伝っていた。
目をこれでもかと見開き、口を小さく開けたまま動けなくなった。
今まで誰にも言えなかったおぞましい現実。全く自分のせいではないのに、自責の念に苛まれて、溜まりに溜まっていた感情が溢れている。
慰みや同情の言葉ですら、何の気休めにもならない。
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