96 / 113

柘榴 29

どうしたらいい。 ましてや、そのような人に気を遣うような言葉を掛けたことがない眞ノ助にとっては、特に何も思いつかない。 すすり泣く側仕えの横で、知らず知らずのうちに、焦りが募る。 それからどのくらい経っただろうか、おもむろに立ち上がったことにより、意識はそちらに向いた。 目が合った瞬間、寂柳は深く一礼する。 「私も今後、平気な顔をして坊っちゃまの側仕えとしていられません。ですから、本日付けでお暇させてください」 「え……」 血の気が引いていくのを感じた。 あのようなことがあったのだ。どちらにせよ、この側仕えも使用人(あれら)と同じ処罰を下さないとならない。 今までの自分であったら、あれらに言い放ったことと同じことを言っていた。ところが、今は、ようやっと出た間抜けな声しか出なかった。 「それでは」と着物の擦れる音と共に、側仕えが部屋から出ていく。 何かを言わなくては。 ──ほんの少しでもよいので、私のことを頼ってください。私はあなたの側仕えなのですから。 そうだ。お前は僕の側仕えなのだから、どんな理由であれ、僕のそばにいるべきなんだ。 「……待っ……」 どんな言葉でもいい、側仕えのことを、寂柳のことを引き止めなくては。 そう思った。だが、色んな言葉が引っかかったせいもあり、ようやく出た言葉と共に振り返った時には、側仕えの姿はなかった。

ともだちにシェアしよう!