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『金平糖の君へ』4
踵を返し、心当たりがありそうな場所へと向かおうとした眞ノ助の腕を掴む手によって阻まれた。
「何するんだ! 離せ!」
「……そのような余裕のない気持ちで、想い人の元へ行くおつもりですか?」
「お前には関係ないだろ! 行く手を阻むと速攻クビに……」
はた、と手を振りほどこうとした腕を止めた。
「今、お前はなんて」
「その側仕えのことを好いているのでしょう? さきほどの坊ちゃんの発言から、ただの関係ではないと見受けまして」
「お前に何が分かる」
「……分かりますとも。私にもありましたから」
手に力が込め、痛みが走ったが、雪人の表情を見た瞬間、その痛みは忘れてしまった。
何かに対して後悔しているような、耐えきれない顔をしていた。
ようやく見せた表情がそんなのであったものだから、思わず見てしまった。
が、それも僅かなことで、「失礼しました」と雪人から手を離し、こう言った。
「私が代わりに旦那様と掛け合っておきますから。その間に坊ちゃんは、気持ちの整理をしてください」
──と、そんなことがあったのが数日前の話で、今もどことなく焦りのせいで、気持ちが落ち着かない。
早く、一刻も早く、寂柳に会いたい。
「そういえば、寂柳さんの具合はどう?」
「そうだな」
「秋頃から見かけなくなったんだよね。ずいぶん長引いているんだね」
「そうだな」
「まだまだ寒い日が続くから、悪化しなければいいけど」
「そうだな」
「……寂柳さんのこと、好きなんでしょ」
「そうだな」
隣でわざとらしい盛大なため息を吐いた。
「ねぇ! いつも以上に生返事すぎるんですけど! 寂柳さんのこと考え過ぎだよ!」
両肩を掴んだかと思うと、激しく揺さぶってはそう大声で言うものだから、下校中の他の生徒らが、何事だとちらちらと見ていた。
そのことも含め、「なんなんだよ」と露骨に嫌そうな顔をした。
「寂柳のことなんて考えてもいないし、考えていたとしても、お前には関係ないだろ」
「ある! ものすごく関係ある!」
きっぱりとそう言われて、さらに顔をしかめる。
「だって、友達が何も手をつけられないぐらい物思いに耽っているのだから、放っておけないよ」
「……だとしたら、お前に何が出来る」
「僕がどうしてこの学校に進学したのか、その理由を聞いてくれた時みたいに、ただ口にすればいいんだよ。少しでも心の整理がつくと思うんだ」
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