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『金平糖の君へ』6
「……寂柳に何かあったのか」
「……簡潔に言いますとそうなります」
淡々と述べる雪人に、緊張が走る。
「数日前に、旦那様に掛け合ってみますと言いましたが、それ以前に寂柳殿自身がもう復帰する気はないとのことで、話をすること自体無意味に終わりました」
「……そ、んな……」
絶句した。
やはり、自分のことは嫌いであるから、もう会いたくはないということだ。
そうだ。寂柳が欲しいがためにどん底に叩きつけた忌々しい相手の孫だ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという言葉があるように、連想されるものは極力避けたいというのが普通だ。だから、妥当な判断といえる。
もう、会うべきじゃない。
絶望の淵にいた眞ノ助に、「……これは、私の無駄口なのですが」と静かに言う。
「今夜、ここを去るそうです。ですから、何か言いたいことがあるのでしたら、今すぐにでも会いに行ってみてはいかがでしょうか」
俯いていた顔をバッと上げると、真剣な顔をした雪人と目が合った。
「……それは、本当なのか」
「本当に私の無駄口に過ぎないですから、真偽はどうかご自身の目で」
「では、私はこれで」と一礼した後、両手を揃えて障子を開け、出て行こうとする雪人の後ろ姿を見つめていながらも、心はここにあらずという視線を向けていると、「ああ、そうでした」と独り言のように呟いた。
「離れの使用人部屋は、寂柳殿しかおりません故、人目を気にせず会えるかと」
雪人がいなくなりしばらく。しんと静まり返った自室で悶々としていた。
先ほどの雪人の"無駄口"は、本当に信じていいものなのか、どうなのか。
仮に真に受けないで、会いに行かなければ、今夜寂柳はここから去ってしまい、もう二度と会えない。
ほんの数日間しか仕えていない者の話を、信じるべきなのかどうなのか、判断材料がないに思われたのだが、「お前にも慕う相手がいたのか」と去ろうとする背に向かって問いかけてみると、「……私も共に、散りたかった」
その言葉の意味をもまとめて考えてみるからに、悶々としている時間が無駄だ。
嫌われていたとしたならば、それではっきりとこの想いは断ち切れる。
眞ノ助は部屋から立ち去った。
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