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『金平糖の君へ』7

薄暗い廊下を、なるべく音を立てずに歩く。 時折、ギシと軋む音に、人気のないはずの廊下で、誰かに気づかれてしまうのではないかと、身を竦めながらも先へと進む。 秋頃にあのようなことがあり、寂柳に関わっていた使用人らが一斉に解雇されたことがきっかけで、寂柳が来た時から、あのような容姿が相まって、誑かしたのではないかとという、どこから湧いて出てくるのか、確信的で根も葉もない噂をし、寂柳を悪く言う者がいた。 男のクセに男を誑かすだなんて、悪趣味だとも。 そのような話を、とある部屋の前でも漏らしているのが聞こえ、瞬時に湧き上がったこの怒りをぶつけたいと思ってしまったが、そんなやつらに構っている間に、寂柳がいなくなってしまうと思い、面白くもない話題をする使用人らのことをとにかく気にしないようにしつつ、なるべく早く立ち去る。 そして、さっきよりも闇が濃くなった空間を見据える。 この渡り廊下を渡ったら、使用人部屋がある。 雪人の発言から、寂柳しかいなく、それに、さっき通った部屋から聞き慣れた使用人らの談笑が聞こえてきたことから、隔離という名の孤立をさせているのだろうか。 腹の立つ。 あんなにも怖いと思っていた暗闇を、ずかずかと歩いていき、とある襖の前へと立つ。 この先に、寂柳が。 一気に緊張が高まり、体が強ばる。 耳にまで聞こえているかのような、速まる心臓を聞きながらも、それを遮るように声を上げた。 「寂柳! この中にいるのか!」 走ったような、少々乱れた息を吐いていた。 「……坊っちゃま……? どうしてこのようなところに」 驚愕と、おずおずとしたか細い声が聞こえた。 ああ、まだいてくれて良かった。 少しの安堵の息を吐いた。 「お前が今夜、ここを去ると聞いた。だから、挨拶なしに勝手に僕から去るやつのことを叱ろうと思ってな」 言いたいこととは全く違う、憎まれ口を叩く。 違う。これじゃない。 そうとは思っても、弁解する口はなかった。それに。 「……坊っちゃま。あの時に仰いましたでしょう。あのようなことを主にしてしまい、平気な顔で側仕えとして坊っちゃまに仕えるだなんて、あまりにも無神経過ぎます。だから、すぐにでもここを立ち去ろうとしました。……挨拶をせずに去ろうとしましたのは、無礼でしたね。申し訳ございません」

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