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『金平糖の君へ』8

「無礼だと思うのなら!」 己の思うままに、思いきり襖を開ける。 「今、ここで言ってみせろ!」 怒気を孕んだ、叫びにも似た声。 いくら離れとはいえ、誰かに気づかれてしまうのではないかと思ったが、気にしている場合じゃない。 気にするべきなのは、六畳程度の和室に、締め切られた室内を文机に置かれていた電灯が灯され、その灯りに照らされた、側仕えとしての服装をした、困惑を極めた寂柳の姿。 久々に見るのが、そんな顔だなんて。 怒りなのか、悲しみなのか分からない気持ちが入り混じり、浮上する。 「……申し訳ございませ──っ!」 こちらに座り直した寂柳が、変わらずの優雅な一礼をしようとしたところを、抱き留めた。 考えるより先に行動をしていた。だから、自分自身も何故、このような状況になったのか、数秒遅れて気づいたが混乱した。 その混乱は寂柳もそうなのだろう、腕の中で、「な、何をなさっているのですか!」ともがくのを、必死になって腕の中に抱き込む。 ああ、あの匂いが自分にまとわりついてくる。 「これでは誠意が見せられません! おやめ下さい!」 「誠意を見せなくていい!」 「何なのです! そう仰ったのは坊っちゃまでしょう!?」 「違う!」 「違わないでしょう!──!」 後頭部を掴むとそのまま引き寄せ、口を塞いだ。 瞬間、目を見開き、動きが止まった。 それを見た後、すぐに唇を離す。 「な、何を……」 「……う……っ」 「はい……?」 「違う、違うんだ、寂柳。……本当は、こんなこともしたいわけじゃなくて……」 後々になって、自身の行いに恥を覚え、頬に熱が集中しているのを感じる。 自分らしくない。いつもの傲慢さはどこに行ったんだ。 苛立ちが募っていく。 そんな眞ノ助のことを、思ってもみなかった行動に、きょとんとしていた寂柳であったが、肩を震わせた。 「寂柳!? お前また泣いているのか!」 腕を解いた眞ノ助は焦ったが、「いえ」と小さく咳払いをした。 「今までの、わがままで態度が大きい坊っちゃまはどこへ行ったのです? そんな狼狽えている坊っちゃまを見るのが初めてでして、つい笑ってしまいました」 「わ、笑うな! 人がせっかく心配してやってるのに!」 「ふふ、そうですね。気を遣うのも坊っちゃまらしくもない。それではまるで……」 不自然な途切れ方をして、眞ノ助は「なんだ」と促したが、首を横に振った。

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