105 / 113
『金平糖の君へ』8
「無礼だと思うのなら!」
己の思うままに、思いきり襖を開ける。
「今、ここで言ってみせろ!」
怒気を孕んだ、叫びにも似た声。
いくら離れとはいえ、誰かに気づかれてしまうのではないかと思ったが、気にしている場合じゃない。
気にするべきなのは、六畳程度の和室に、締め切られた室内を文机に置かれていた電灯が灯され、その灯りに照らされた、側仕えとしての服装をした、困惑を極めた寂柳の姿。
久々に見るのが、そんな顔だなんて。
怒りなのか、悲しみなのか分からない気持ちが入り混じり、浮上する。
「……申し訳ございませ──っ!」
こちらに座り直した寂柳が、変わらずの優雅な一礼をしようとしたところを、抱き留めた。
考えるより先に行動をしていた。だから、自分自身も何故、このような状況になったのか、数秒遅れて気づいたが混乱した。
その混乱は寂柳もそうなのだろう、腕の中で、「な、何をなさっているのですか!」ともがくのを、必死になって腕の中に抱き込む。
ああ、あの匂いが自分にまとわりついてくる。
「これでは誠意が見せられません! おやめ下さい!」
「誠意を見せなくていい!」
「何なのです! そう仰ったのは坊っちゃまでしょう!?」
「違う!」
「違わないでしょう!──!」
後頭部を掴むとそのまま引き寄せ、口を塞いだ。
瞬間、目を見開き、動きが止まった。
それを見た後、すぐに唇を離す。
「な、何を……」
「……う……っ」
「はい……?」
「違う、違うんだ、寂柳。……本当は、こんなこともしたいわけじゃなくて……」
後々になって、自身の行いに恥を覚え、頬に熱が集中しているのを感じる。
自分らしくない。いつもの傲慢さはどこに行ったんだ。
苛立ちが募っていく。
そんな眞ノ助のことを、思ってもみなかった行動に、きょとんとしていた寂柳であったが、肩を震わせた。
「寂柳!? お前また泣いているのか!」
腕を解いた眞ノ助は焦ったが、「いえ」と小さく咳払いをした。
「今までの、わがままで態度が大きい坊っちゃまはどこへ行ったのです? そんな狼狽えている坊っちゃまを見るのが初めてでして、つい笑ってしまいました」
「わ、笑うな! 人がせっかく心配してやってるのに!」
「ふふ、そうですね。気を遣うのも坊っちゃまらしくもない。それではまるで……」
不自然な途切れ方をして、眞ノ助は「なんだ」と促したが、首を横に振った。
ともだちにシェアしよう!