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『金平糖の君へ』9

「……これは私の勘違いですので、お気になさらず」 「いや、それは勘違いじゃないかもしれないぞ」 「……え?」 少しばかり驚いた表情を見せる側仕えに、眞ノ助は言った。 「お前は、僕のことが……嫌いだろう?」 「はい? そんなことはないですよ。主人としてお慕い申しております」 「そうじゃない。人としてはどうなんだ。その……あの祖父の孫だ。見る度に嫌悪するだろう」 何度も心の内で思っていたことなのに、いざ言葉にしてみると、ズキズキと心が痛む。 いや、眞ノ助の痛みなんて、寂柳の身も心も傷つけられた痛みに比べたら、比べるのも甚だしいだろう。 「たしかに、坊っちゃまがおじい様の話をされている時、憎悪という感情が湧き起こりましたし、誰かの不幸を踏み台にして、何不自由なく、身勝手に振る舞っているのが、快く思いませんでした」 ああ、やっぱり。 けれども、これが聞けて良かったとも思えた。 これで、何も思い残すことはない。 そう内心落ち込んでいる眞ノ助に、「ですが」という声で顔を上げた。 「憎悪というのは、羨望と表裏一体なのです。ですから、当たり前にあったかもしれない日常を、坊っちゃまを通して見ていたのもありますので、何と言いましょう、坊っちゃまに関しては、そういった感情ではないのです」 瞠目する。 じゃあ、やっぱりそれは。 今までに言ったことのない言葉を出そうとした。しかし、細くて長い指に唇を塞がれた。 「これ以上言ってはなりません」 その手を退かした。「どうしてだ」 「立場が違いますし、何より私は生涯、いえ、この身を滅ぼしたとしても、償っても償いきれない大きな過ちを犯したのです。相容れません」 「それは僕もそうだと言っただろう! あの時だって、抵抗しようと思えば出来たのに受け入れてしまった。だから、祖父の罪も含めて償うと言っただろう!──ん!」 突如、両頬に手を添えられたかと思うと、唇を奪われた。 あの時のように舌を入れられると思い、身構えたが、呆気なく唇が離れた。 「でしたら、」 寂しそうな表情の側仕えがいた。 「……私の体を受け入れてくださいますか?」

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