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第4話

「わかってねえなあ。これが新しい墨の芸術なんだよ。餓鬼にゃあまだ早え」  と言うと、「おお、失敬」と言ってから屁をこきやがった。俺は急いで鼻をつまむ。誰がこんな、47のジジイの屁を嗅ぎたいと思うんだ。俺にそんなフェチはない。 「……もう帰んぞ」 「待ち待ち。最近客入り悪いからよお、ダチとか連れてきてさ、客にしてくれよ。学割で20パー引きしてやるから。な?」 「筒百合サン、深酒で頭ぱーになってんのかもしんないけど、俺中学生。刺青入れるのに学割とかねえだろ。そんなん使うやつおらんわ」  がはは、と肩を揺らして笑う煙草男。2m数センチの巨人はヤンキー座りしていても容易く圧迫感を生む。 「……あー。もう俺行くわ」  ブブブと、震える携帯電話を見て溜息混じりに筒百合サンに視線をやる。 「なんだー彼女か。ちゃんと避妊しろよー。ゴムはzeedを推しとくぞ。極薄0.1ミリ。ローション付きで1980円。安くてうまい」  こンのジジイ。なにをそんなに自慢げに。 「余計なお世話だ。俺のはそんな生易しいもんじゃねえよ」 「……もしかして、アイツか? 最近やってきたっつう……あんだっけ。なんか、イケメンネームの……」 「イケメンネームじゃねえよ。キラキラネーム。るあ、つうんだよ。ホストだかなんだかみてえな名前だろ」  フーム、と納得しつつ筒百合サンは腕組みをしながら自分の鼻下の髭を整えている。

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