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第8話

 だから俺はケッコーこいつを信頼している。  玄関先で靴を脱ぎ、靴棚に入れる。こうしておかないと、親父に尻を叩かれる。昔からだ。躾に厳しい人だった記憶しかない。  どうせそこにいるんだろうと思いながら、2階に上がる。2階の中央の部屋のドアをコンコンと2回叩く。しかし、向こうからの反応はない。  どうせ居眠りでもしてるんだろ。  そうほぼ確信してから、ドアを思い切り強く開けた。 「るあ! ご注文の品だ、あ……っ」  ジジ、と項に焼印を押し付けられるような痛みが胸を走った。  部屋の中央の白い丸型のラグの上で、2つの人影が絡み合っている。 「……」  うんざりするような、ため息と瞳。黒い煤のような色の瞳の男が俺を見た。瞼を軽く持ち上げて、気だるそうに口を動かす。 「出ろ」 「は、い」  俺は深々とお辞儀をして手に持っているエコバックを掴む手が震えた。 「あ! 弓春くんありがとう。そこ、置いといて」  るあ。全然、気にしてないみたいな空気を出して俺に声をかける。内心、良いところを邪魔されたから不機嫌になっているのかもしれない。こいつは、表と裏の顔が激しい気がするから。まだ、るあはこの家に住み着いて1週間なんだけど。手馴れてやがる。男の扱いっていうか。年下の俺にも指示出すし、年上の親父にもうまく取り入っているっぽい。  親父、やめてくれ。35のいい歳した親父が20そこらの成人済み男性(笑)に飼い慣らされるとか。ここが地獄になるだろ。  そんな、小言を心の中で呟きながら部屋の扉を閉めた。扉が閉まるまで俺はずっと親父を見てた。けど、親父は全く俺のことなんて眼中になりみたいに、るあのことを構っている。ちらっと見えた。るあの開襟シャツの首筋についた紅い花弁の跡。それが何を意味するのか理解できるほどに俺は歳をとっていた。  ーーいいな。  どくん、と胸が不気味な音を立てて震えた。なに、思った、今。  今までも、幾度となく感じてきた違和感に蓋を被せる。急いで瓶の蓋を閉めないと溢れてきてしまいそうだから。

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