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第9話 牧師様は今日も優雅に爪を磨く

「だから、もう何人目なん」  爪ヤスリで自身の爪をせっせこ磨いている男に聞かれる。白と黒の法衣に身を包み、教会の長椅子に仰向けで寝っ転がっている。これ、信者が見たらこんなクソ牧師、即追放するだろ。辺境の外国の支部とかに。 「……るあで7人目だ」 「wow. ラッキーセブンやん」 「茶化すなよ」 「めんごー。そうかあ。弓春の親父殿のペットはたくさん乗り換えられてきたんやなあ。どや、弓春もういっそのこと親父殿に告ってもうたらええんちゃう?」 「……」  俺は今この瞬間、世界で1番呆れた顔をしている自信があった。この牧師様ときたら、自身の爪のケアしか眼中に無いのだ。こんな野郎に相談するのも嫌々だ。1度もまともな案を出してくれた試しがない。 「妙僕(みょうぼく)さんは他人事だから好き勝手言えるけどさあ。俺の中じゃ大問題なんだよね。そこんとこ、ちゃんと理解して? 真剣に考えてくれないかな? ほら、15のピチピチのDCが恥を忍んで相談しに来てるんだから。今こそ、牧師様の腕の見せどころだろ」 「お、おま……そんなに俺のこと信頼してくれてたんやな……っ。妙僕感動」  この似非関西弁牧師は、すくっと立ち上がると俺の両手を掴み、ぶんぶんと握ってきた。 「……じゃあ頼むよ。マジで。なんかいー案出してよ」 「任せろぃ。うぅん……そだなー。その、お前の親父殿のペットが気になってしまうっていう悩みは親子だからこそやないんかな。親父が息子の自分以外構っとったら、そりゃあいい気はせぇへんしな」

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