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第15話
「実田さん。一味、ちょうだい」
愛嬌のある笑顔で三琴が催促。実田は理由は承知だ。
「一味ですね、はいはい」
三琴に一味を手渡すと、半分くらいまで食べかけのローストビーフに乗ったポーチドエッグにドバドバ掛けた。
「真っ赤っかだー!」
隣の真琴がそれを見て笑顔で叫ぶ。
三琴は再び、フォークを刺し、口に運ぶ。
「んー!美味し!」
「ちょっと、実田さん、甘すぎなんじゃないですか!?」
「三琴様には少々、甘すぎたのかもしれませんね」
「そういう意味じゃなく!ホイホイと一味を渡してしまうなんて。胃を悪くしたら、どうするんです!?」
「味変は個人の自由ではありませんか?」
「...家政婦の分際で意見とは」
「教育係が偉いんですか?」
津島と実田の言い争いに、真琴も三琴も興味を示さず、二人とも平らげた。
「お皿、お下げ致しますね。まだお時間はあるようですし。食後のデザートをお持ちします」
実田がにっこり二人に微笑んだ。
「「デザート!?なに!?」」
「ふふ。苺ですよ」
「あ!僕には練乳かけて!実田さん」
「ええ。三琴様は練乳は無しで宜しいですか?」
「うん!」
そうして、それぞれの前に置かれた、透明の小さな器には苺が五つ。
「「いただきまーす!」」
同時にフォークで刺し、パク。
「「んー!美味しー!」」
「そうですか、それは良かった」
真琴、三琴の双子には二人の両親ですら甘い。
その為に、両親は話し合った結果、教育係の少々、厳しい津島を雇っているのだが...実田もまた、二人に甘く、津島の厳しさが霞む。
「あ、そうだ。真琴、アレ、どうしようか」
「ああ、アレだよね...帰宅したら一緒に探し行く?」
「アレ?アレとはなんです?真琴様、三琴様」
津島が訝しげに尋ねた。
「ああ、うん。先日、順平くんのお家でケーキと紅茶をご馳走になったと言ったでしょう?」
フォークに刺した苺を持ち、真琴が話し出す。
「手土産を持っていきますね、てお母様に伝えたのだけど...ケーキを戴いたし、やっぱり、洋菓子がお好きなのかな、と思って」
津島を見たまま、苺にフォークを刺しながら三琴が語る。
「ああ、なるほど、手土産ですか。ケーキを戴いたから、と、洋菓子に限らなくても」
「でしたら、お二人が学校の間、私が買って参ります。お二人は授業に専念されてください」
「「ありがとう!実田さん」」
実田が微笑むと、真琴と三琴も同時に実田に溌剌とした笑顔を向けた。
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