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第16話

※家政婦の実田さんと教育係の津島さん 「何処もおかしくない?寝癖は付いてない?」 「うん、大丈夫。僕はどう?」 「あ、待って、手櫛で直してあげる」 真琴と三琴が真新しい制服で互いを鏡に見立てている姿を実田が微笑ましく見守る。 「「じゃ、行ってきまーす!」」 「はい、行ってらっしゃい、真琴様、三琴様」 真向かいの志垣順平の家に連れ立って歩く姿を見送り、さて、と室内に入る。 「...相変わらず、仏頂面ですね」 スーツ姿の教育係、津島に出くわし、整った端正な顔立ちながら、にこりともしない、その顔を見上げた。 「...悪いか。家政婦の癖にヘラヘラしやがって」 「仏頂面の家政婦なんていますか?朝食をご用意致しますので」 ネイビーのポロシャツにエプロンを着けた実田に続き、カチッとした、グレーのスーツにネクタイの津島が後を追い、歩く。 ダイニングテーブルには、真琴と三琴に振る舞ったものと同じ朝食が並んでいく。 「さ、どうぞ」 「お前は食べないのか?」 「僕は後で頂きます」 そうして、実田はコーヒーを淹れる。 「...朝からローストビーフとは」 「はい?」 湯気を立てるコーヒーカップを口元に寄せていた実田が津島に問う。 「朝から豪勢過ぎるんじゃないのか?まだ二人は高校生でもあるのだから、健康面を考えて...」 す、と文句を言いつつ、津島が食べていたローストビーフの皿を引いた。 「そうですか、次から気をつけます。御忠告頂きありがとうございます」 ...もの欲しげに津島は取り上げられたローストビーフを睨んでいる。 「朝からローストビーフなんて、健康面に宜しくないですもんね。せっかく、国産和牛の肩ロースで朝から焼いたのですが」 「...食べないとは言っていないだろう」 「...食べたいのですか?」 実田の柔らかい笑顔が津島を見下ろした。 髪色と同じ、茶色の瞳が津島を見て細められる。 「...廃棄するのは、勿体ないだろう、せっかくの食材が...。それにガーリックバターも絶妙でまあ悪くない味付けだった」 「食べたいのですね?」 く、と敗北に津島は奥歯を噛み締めた。 「...食べたい」 堅物なアルファの津島を手なずけてしまう、オメガの実田、強し。

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