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第17話
※実田さんに敵わない津島さん
実田の一日は忙しい。
高級ブランドの食器を手洗いし、洗濯機を回しながら、二階立ての部屋の隅々まで、掃除機をかけ、水拭きする。
そんな実田を眺める、津島さん。
真琴と三琴が登校すると、やる事のない津島は手と脚を組み、リビングのソファに座り、真顔で忙しなく往来する実田を眺める。
「あ、そういえば」
ふと実田が足を止めた。
「どうした?」
「今日は木曜日」
「ああ、家庭教師の日か」
火曜日と木曜日は真琴と三琴に宛てがわれた家庭教師の訪問の日だ。
「そうだ。須崎さんもいらっしゃる訳だし、クッキーでも焼きましょう!」
しばらく、顎に指を置いた実田から毅然とした声が発せられると、聞こえよがしに、ち、と津島が舌打ちをした。
「家庭教師に色気づきやがって、なんて破廉恥な家政婦だ」
腕や長い脚を組んだまま、実田に眉を顰めると、実田は蔑んだ目になり、津島を見下ろした。
家庭教師の須崎真一郎はアルファで奇しくも実田と同い年の24。
津島は26。
「破廉恥なのはどちらです?高校生の身分で高級菓子をお二人が渡すのも、と、お二人の共同作業でクッキーを焼いた、という事にして、順平様のお母様にお渡しさせるついでに須崎さんのお茶請けに、と思ったまでの事ですが?」
う、と真相を知り、実田の冷たい視線を浴びたまま、津島は固まった。
「あ、後、その糊で固めた髪。もう少し、ラフになさったら如何です?だから、真琴様や三琴様はあなたに懐かないんですよ」
「...な!これは糊では無い!ジェルとワックスを屈してだな!」
「さて、僕は買い出しに行きますかね。お夕飯はなんにしようかな?」
わなわなと怒りに震える津島さん。
確かに真琴と三琴が懐いていない事実に津島は言い返す術は無い。
そんな津島を見ないまま、実田は優雅な足取りでエコバッグを片手に玄関へ消えた。
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