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第21話

「さ、今日はこれくらいにしようか、真琴くん、三琴くん」 入口の扉近くに並ぶ勉強机で須崎は二人に微笑んだ。 「あー、やっと終わったー!」 「あー、疲れたー!」 二人が同時に伸びをする。 奥の窓際にあるキングサイズのベッドまではかなりの距離があり、フローリングの床には上質な毛並みのラグ。 中央の大きなテーブルはソファが囲っていて、ソファには二つの可愛らしいテディベアが座っている。その間近にはこれまた大きなテレビがある。 真琴、三琴、二人分の広さとはいえ、充分以上に広い。 「お疲れ様です。須崎さん、真琴様、三琴様」 不意にノックをし、実田が微笑みながら、部屋へとやって来た。 テーブル近くに椅子を置き、手脚を組んで座る津島もいるのだが。 「家庭教師の須崎さんがいらっしゃるのですから、津島様は少々、お休みされては如何です?」 と、最初に実田に苦言を受けたものの、納得がいかない津島は勝手に居座っているだけだ。 心中はこう。 幾ら家庭教師であろうと須崎真一郎はアルファだ。 真琴様や三琴様に万が一の事があるやもしれん、その時は私の出番だ、と意気込んでいる。 その際は須崎を追い払い....。 しかし、特に問題なく、約二時間の家庭教師の時間は終わりを告げた。 「さあ、どうぞ」 トレイに乗せた紅茶と大皿には色とりどりのクッキー。 「「わー!クッキー!」」 真琴、三琴が歓声を上げた。 片方の生地にココアパウダーを混ぜた、一松クッキーや渦巻きクッキーのアイスボックスクッキーだけでは無く、真ん中に二種類のチョコが覗くバタークッキーは見た目も可愛く、華やかだ。 「「いただきまーす」」 「いただきます、実田さん」 三人がそれぞれ、クッキーを手に取り、齧り付く。 「「んー!美味しいー!」」 「実田さんの手づくりですか!?上品な甘さですね、市販の物かとびっくりしました」 遠巻きにそのやり取りを津島は眉を顰め眺める。 「津島さんは戴かないんですか?」 津島の視線に気づいた須崎がクッキー片手に尋ねた。 「私はいい」 「あの方は味や素材や健康面にうるさいんで、お気になさらず」 実田が笑顔で須崎を見る。 「え!こんなに美味しいし、市販の物よりずっと健康面に良さそうですけど。コストも市販より掛からないでしょうし」 「実田さん、お料理、上手だよねー!須崎さん、お嫁さんにしてあげてよ」 「うん!須崎さんなら優しいし、安心して、実田さんを預けられる!」 真琴、三琴の悪びれないアドバイスに津島の片眉がピクリ、と動いた。 津島と須崎は同じアルファだというのに、二人はまるで津島は眼中に無いかのよう...。 「そうなれたらいいんだけどねー、なんて」 須崎が二人に笑った。 「須崎さん、良かったら、もう遅いですし、お夕飯も戴いていってください」 「いいんですか?」 そうして、本日の晩餐は、お刺身と天ぷらの盛り合わせ、ざるうどん、オクラの和え物、ところてん。 「さ、食べますよ、津島さん」 実田に見下ろされ、津島も一緒にみんなで美味しく戴いた。 クッキーは、実田が自ら白い箱に真紅のリボンでラッピングし、 「お二人がお作りした、という事にして、順平様のお母様にお渡しください」 と手渡した後、その流れを食い入るように見つめる津島の鋭い瞳から、 「津島さんも食べたいのですか?」 蔑んだ瞳で言われ、暫し口論を頑張ってはみたものの... 結局、津島がおねだりする形になり、実田の手づくりクッキーを紅茶と共に美味しく戴いた。

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