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第32話
‡《4日目》‡
誰かに呼ばれた気がして、唯斗は目覚めた。
満たされた甘い感覚とゆるい倦怠感がまだ体内に残っている。
隣を見ると、隆輔が眠っていた。長い付き合いだが、こうして間近でじっくり寝顔を見るのは初めてだと気付く。
起きているときは隙のない威圧的な印象を与える美貌も、眠り込んでいると物柔らかで穏やかだ。みつめていると昨夜のことが思い出され、体が甘く疼き胸が切なくなった。
強い力で自分を引き寄せた腕はまだ離れがたいのか、唯斗の胸の上に乗せられている。二の腕の白い包帯が痛々しいが、化膿している様子はない。
唯斗は乗せられた腕をそっとどかし、ゆっくりと上体を起こした。
人一倍気配に敏感な隆輔がそれでも目覚めず安らかな寝息を立てたままでいるのは普通なら考えられないことだったが、おそらく呼ばれているのが唯斗だけだから、彼の方はそのまま眠らされているのだろうと自然に理解した。
その男らしい唇にそっと口付け、窓の外を見る。空はここ数日の抜けるような晴天が嘘のように、陰鬱なグレーの雲で覆われている。
今にも泣き出しそうな天を見上げ、唯斗は瞳を閉じた。
『彼』が、すぐ近くにいる気配を感じた。
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