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第2話
ひどく寝苦しい夜だ。
それでも、ひやりとした大きな手が、熱を持った肌を沈めてくれる。頬から首筋へ、ゆっくりと滑っていく手のひら。
深く息を吐く。ああ、気持ちいい。
けれど、もうすぐこの夢は終わる。ぼんやりと意識の奥底で、これは夢だと俺は理解していた。
こういうのを明晰夢というのだったか。もうすぐアラームが鳴って、俺はあの蒸し暑い狭い部屋で目を覚ます。
ああ、まだ、もう少し……。
「っ、ぁ……」
ずっ、とTシャツの中に冷たい掌が滑り込んできて、思わず声が出た。
ここまで手が入り込んできたことは、今までない。
にわかに変わった夢の内容に、少しの緊張が身体に走る。
俺の両胸の上で、乱れる鼓動を確認するかのよう静止していた手が、ゆっくりと動き出す。むに、むに、と丹念に両胸を揉みほぐすように指が動く。
いつまで経っても指が同じ動きを続ける中で、段々と緊張は薄れていき、代わりに疑問符が脳内に溢れてきた。
なんでこいつは多分男なのに、俺の胸を揉んでるんだ?
あくまで夢の中だから、望んだように声は出せないし、抵抗もできない。ただ男にされるがまま、ひたすら胸を揉まれるしかない。
なんなんだこれ。早く目覚めたい。
ひたすらそう願う俺の胸の上で、男の指はずいぶんと長く這いまわっていた。
――
シャワーから勢いよく放たれる冷水を、頭のてっぺんから浴びる。最初のうちは冷たくて死ぬ、と思うけれど、浴び続けているうちに段々感覚が麻痺してくる。
冷たい液体が髪をかき分け地肌を流れ落ちていく感覚が心地いい。ずっとこうしていたいけれど、脳裏に水道代の請求がちらついて、俺はしぶしぶ蛇口を閉めた。
ふう、と息を吐いた拍子に、鏡に映る自分の姿が目に入る。
自分の部屋の風呂場に裸で突っ立っている男。見慣れた中肉中背のさえない俺の身体だが、一か所だけおかしな部分があった。
「でかくなってる、よな……」
平坦な胸の上に、ぽつっと存在感を表している二つの乳首。
以前はそこにあることさえ忘れるほどだったのに、今はふっくりと乳輪から盛り上がり、その真ん中に淡い紅色の乳首がツン、と芯を持っている。
最近、服を脱ぎ着する時など、ふとした時にやけに気にはなっていた。けれど、こんなにはっきりと変化しているなんて。
思いつく理由は、ただ一つしかなかった。
夢の中に現れる男に初めて胸を揉まれてから二週間、毎夜、あの男の冷たい指に、胸を好き放題に揉まれ続けていること。
けれどあれは、夢だ。
夢のはずだ。なのに、どうして。
「……っ」
すうっと背筋が冷たくなった。
慌てて風呂場を出て、バスタオルを手に取る。ガシガシと強めに頭を拭いて、荒っぽく上半身にもタオルを当てた。
「ぁっ」
たまたまタオルのフチが乳首を擦った瞬間、ぎくん、と身体がしなる。おそるおそる胸元に目をやると、白いタオルの内側で、先ほどよりも赤みを増した乳首が見えた。
ゴク、と唾を飲む。
やってはいけない。わかっている。けれど。
「っ、は……」
タオル越しに、おそるおそる乳首をつまむ。指をすり合わせれば、ずりずりと荒いタオルの繊維が乳首を擦って、甘い感覚が這い上がってくる。
気持ちいい。
夢の中の記憶がフラッシュバックする。
最初の数日は何も感じなかった。気持ち悪いな、とさえ思っていた。
けれど、だんだんと男の指に快感を拾いはじめて、後は転がるように落ちていった。男の指が服の隙間に滑り込んでくるだけで肌が粟立って、じっくりと乳輪から揉み解されてしっかり立った乳首を、満を持してこね回される感覚に、動けない身体で毎夜身悶えする。
「ぁ、あ、あ……」
でも、あれは夢のはずだ。
ならどうして、俺は今こんなことをしているんだ?
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