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第3話

ひどく寝苦しい夜だ。 おまけに、今日はいつにも増して身体が熱い気がする。乳首を弄って中途半端に熱を持て余したまま、無理矢理寝たせいだろうか。 いつものように、男の手が伸びてくる。頬に、首に。 その冷たさを喜びながらも、もうその先を待ち焦がれている自分がいる。 早く、と期待に胸を膨らませた矢先、ふっと手が首筋から離れていった。 え、と声にならない声が零れた。 どうして。 なんで。 そこにいるのは分かるのに、いつまで待っても、冷たい男の指先は降ってこない。燻っていた熱は、ぐるぐると身体中を巡って、今や焼き焦がすような熱さになっている。 もう一秒だって耐えられない。 焦らすなよ。なあ、早く。 「触れ」 はっきりと、声が出た。 それと同時に、ぱちりと目が開いた。 初めて見る夢の中の視界には、見下ろすようにこちらを見ている男の姿があった。 少し長めの黒髪を襟足あたりで縛って、片耳にシルバーのピアスをしている。綺麗な顔した男だ。 「……」 うまく言葉にできない。 ただ、胸がざわざわする。 薄く口を開いたまま、呆然と俺は男を見上げた。 「やっと言ったね」 初めて聞いた男の声は、低く、蕩けるように優しかった。その口元には、心底嬉しそうな笑みが浮かんでいる。 冷たそうに見えた切れ長の目が、ふっと優しげに細められた。さらり、と頭を一撫でして、男が視界から消える。 それを追おうとしたけれど、顔が動かない。呼び止めようとした言葉も、うまく口から出てこない。 目が開いたしさっきは声も出たけれど、ここはまだ、あくまで夢の中。自分の意志でそんなに自由には動けないということか。 まだ少しぼんやりしながらも、とりあえず、見える限界の範囲まで目を動かして、周りの様子を伺った。 ここは寝室のようで、俺が寝ているのは明らかに自分のベッドよりも大きい、おそらくダブルベッドだ。 窓際には洒落た観葉植物が置かれ、ベッドサイドのチェストには数冊の本と写真立てが置かれている。開け放たれたドアの向こうはリビングのようで、ダイニングテーブルと椅子が二脚あるのが見えた。 変な気持ちだ。 ここは俺の狭い一人部屋じゃない。実家の部屋とも、今まで行ったことのある友人の部屋のどれとも違う。 それなのに、何故か落ち着くような、そんな気がする。 「なに見てるの?」 ギシッとベッドが軋む。足元のほうから声を掛けられて、ドッと心臓が跳ねた。視界外からいきなり現れるのは反則じゃないか。 よいしょ、と言いながら、当然のように男が俺の腰を跨ぐように上に乗っかってくる。何故だか、ますます鼓動が速くなった。 鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌に見える男が、俺のTシャツに手をかけて、勝手に脱がせていく。抵抗できずされるがままになりながら、脳裏によぎる予感に、無意識に息を吐いていた。かすかな吐息だったはずなのに、目ざとく気づいたらしい男が、くすっと小さく笑った。 薄暗い部屋の中で、露わになった俺の素肌に、ひやりと男の手が触れる。 いつものように冷たいはずなのに、触れられたところから、じわりと熱が広がっていく。 「たくさん、触ってあげるね」 すり、と男の親指が乳輪をなぞるように触れる。それだけで、ぞくぞく、と身体に震えが走った。 「あれ…?ねえ、もしかして、一人でここ、弄っちゃった?」 囁く男の声に、カッと頬が熱くなる。 今すぐ、顔を伏せたい。ピクリとも動かない顔周りの筋肉が恨めしい。 「そうだよね。俺に毎晩、あんなにたくさん弄られて、こんな大きくて敏感な乳首になっちゃったら、触りたくなっちゃうよね」 ふふ、と男がどこか嬉しそうに言いながら、乳輪に親指と人差し指を当てて、ぐに、ぐに、と押し広げるように動かす。男の指で広げられた真ん中で、まだ触られていないはずなのに、俺の乳首は既にピン、と両方とも張りつめている。 「でも、ちょっと荒い触り方した?少し腫れて赤くなってるよ。ああ、気持ちよくて、やりすぎちゃった?」 揶揄するような声に、今すぐ耳を塞ぎたくなる。うるさい。誰のせいだと思ってるんだ。 「じゃあ、まずは優しくしてあげようね」 男の頭が、俺の胸元に埋まる。それと同時に、右の乳首が、ぬるり、と生温かい湿った感触に包まれた。 「ぅ、……っ」 男に乳首を舐められている。 異常な状態なのはわかるのに、それを上回る未知の感覚に、思わず声が漏れた。 温かい口内で、ぬるり、ぬるり、と労わるように舌が右乳首を愛撫する。左乳首は、触れるか触れないかの絶妙な力加減で、右から左へゆったりと撫でられる。じわじわと、けれど確実に教え込まれたそこで感じる快感が、身体を蝕んでいく。 「優しく触って舐めてるだけなのに、もっと固くなってきた。触ってもらいやすくして、偉いね」 「ぁ、……っ」 子供を褒めるように囁く男の吐息さえ刺激になる。もどかしい感覚が、動けない身体に溜め込まれていく。あと一滴、その表面に水滴が落ちたなら、注がれたものが一気に溢れ出すような感覚。 じれったい。辛い。 「どうしたの?」 ふ、と顔前に影が差した。男が、じっと俺の顔を見下ろしている。 さっきまで俺の乳首を含んでいた男の唇が、濡れて光る。 「言ってごらん」 導かれるように、は、と口が勝手に開いていく。 「どうしてほしい?」 もう、耐えられない。 そんな生ぬるい愛撫じゃなくて。いつもみたいに。 「……もっと、ちゃんと触れ」 言葉が音になった。 俺の口から転がり出たそれに、男がひどく嬉しそうに笑う。けれど、細められた目に滲む感情は、今は優しさではなく、明らかな欲情だった。 それに、ぞく、と無意識に震えた俺の目は、今どう見えるんだろう。 「ほら、おいで」 胸の少し上、俺が胸を反らせれば当たる場所で、男が両手を構える。親指と中指で挟み込んで、すりすりとすり合わせるふりをしている。 自分で、選ばせようとしている。 こんな身体にしておいて、あんなことまで言わせて、最後の選択は俺にさせる。あんなに優しい顔をして、性格の悪い男。最悪だ。 そして、それに興奮している俺も、最悪だ。 「っ……」 何故か、身体が動いた。男の指に吸い寄せられるように、荒い呼吸に上下する胸をゆっくりと反らせていく。 あぁ、あと、少し。 「は……ぁ……」 男の少し開いた親指と中指の間に、乳首が入る。見上げた男の唇が、嗜虐的に歪んだ。 「よく、できました」 「…っ、ぁ、あ、あ、あっ、―――っ!」 ぎゅうう、と二本の指で乳首を捩じり潰される。そのまま力任せにすり潰すようにぐにぐと押しつぶされて、喉から絞り出すような声が出る。 「うんうん、ふふ、気持ちいいね?」 「ぅあ、あ、あッ!ぅ、んん、――ッ」 痛いのに、気持ちいい。 身体の中の、ごく小さな箇所を暴力的に嬲られているだけなのに、頭がおかしくなりそうな快感がせり上がってくる。 「ぁ、や、やめ、ぁっ、もッ、やめ、ぇ」 「大丈夫、大丈夫」 縊りだされて真っ赤になった乳首の先端を、人差し指でカリカリと引っかかれて、身悶えするような感覚に歯を食いしばる。 「く、ぅ――ッ!ふ、ぅ、うッ、あッ」 「もっとだよ。もっと乳首で気持ちよくなって。ほら、ほら」 「や、あ、あッ!ぁ、あ、アッ!まって、まって、ぁ、あ、あ」 「待たないよ。ここまでもう随分待ったんだから。さあ、早く見せて」 ぐっ、と根本から一際強く乳首を挟み潰して、男がにっこりと笑う。 「乳首だけで射精する、情けなくて可愛い大好きな姿、見せて」 挟みこんだ力はそのままに、根本から先端へ、ゆっくりと乳首を引き延ばしていく。男に引っ張られている乳首を支点に、胸が限界まで反りかえった。 「ア、ア、ぁあ、アーーッ、―――!」 たっぷりと乳首を引き延ばして、指が離れるその瞬間、バチン、と勢いよく両乳首を弾かれる。 パン、と脳内に火花が散った。 「イけ」 「―――――ッ!!」 はっ、と目が開いた。 見慣れた天井。頭がぐらぐらして、自分がいまどこにいるのかわからない。 しばらく呆然としているうちに、じっとりとした暑さを脳が認識しだした。それと同時に、下腹部の不快感も。 「ぅ、……」 ぐちゅり、と濡れた感覚。 身じろいだ拍子に、ハーフパンツの隙間から、たらりと白い液体が太ももへと伝っていった。

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