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第4話

 あれからもう2年も経っている。  しばらくは落ち込んで授業に出る気力もなかった孝弘だが、ぞぞむや同室者のレオンがまめに声を掛けてくれ、少しずつ立ち直っていった。  失恋を忘れるには新しい恋だよとプッシュされ、この2年の間にアメリカ人とイタリア人の女子留学生とつき合ってもみた。  どちらも相手から誘われたが、開放的な性格で好きになれそうだと思った。祐樹を忘れられるかもと期待したし、忘れるべきだとも思った。  ふたりとも1年の留学期間で帰国することが決まっている相手だったから、それぞれ1年足らずの期間限定のおつき合いだった。  最初からお互いにのめり込むつもりはなくて、留学生同士で中国生活のぐちをこぼしたり勉強を教え合ったりする気楽な相手だった。  明るくて冗談好きの彼女たちをそれなりに好きになったし、セックスもした。一緒にいるのは楽しかったし、メインの会話が英語だったおかげで、かなり英語が上達するというおまけもついてきた。  でも祐樹といたときみたいな、じりじりと胸が焼けつくような気持ちにはならなかった。あんなふうに突き動かされるみたいに行動したり、自分から積極的に声をかけていくようなことはなかった。  単純にそれだけの気持ちを相手に持てなかっただけだろうか。別の人だったら、帰国が決まっていても、もっと本気になれたんだろうか。  祐樹と座ったカウンター脇のテーブルには、スーツ姿の日本人が3人座って酒を飲んでいる。  今頃、祐樹もどこかでああして誰かと食事しているだろうか。広州なら日本人も多いし食事に困ることはないだろう。  それとも、胃が疲れたといいながら、ひとりで適当鍋を作っているだろうか。いや、ひとりじゃないかもしれない。  もう孝弘のことは忘れてしまって、新しい恋人がいるかもしれない。そんな想像をすると胸がきゅうっと痛む。  やっぱりまだ忘れてないのか。 「上野くん、追加、好きに頼んでや。若い子はたくさん食べて、病気したりせんようにな」  伊藤がメニューを差し出してくる。  雑念を振り切るように、目の前の食事に意識を戻した。 「ありがとうございます。じゃあ、おでんにしようかな。大根とこんにゃくと玉子、お願いします」  中国人の店員は日本語の注文を繰り返して確認し、厨房へ伝えに行く。

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