交差点で俺は右へ、想は左へ。 　お互いの家は5分も離れていないのに、大きな信号が少しだけ恨めしい。 　想の家はこの辺じゃ有名な30階建ての高級な高層マンションで、俺の家は祖父母と同居している一軒家。大人しい想と活発な俺、何もかも違うようだが、俺たちの間には凸凹があてはまるような心地良さがある。 「青になったね、じゃあ、またね！」 「想、また明日な！」 「あ……駿、今日はありがとう」 「ん？」 「ううん、おやすみなさい」 　「おやすみなさい」だなんて、まだ夜の7時だぜ。礼儀正しく育ちの良い想らしい。しかも信号を渡った所で必ず一度振り返り、可愛く手を振ってくれる。 　 　俺もそれが見たくて、つい見送ってしまうんだよなぁ。 　明日には、また、ここで会えるのに。 　ところで、さっきの「ありがとう」って指輪のことか。思い出せば、また心の中がポカポカになってくる。 　 　今日の俺、勢いで大胆なことをした。 「ただいまー　腹減ったぁ」 「お帰りなさい。今日は唐揚げよ」 「やった！」 　母が俺の様子を見て、顔をしかめる。 「もう～　なあに？　汗臭いしドロドロじゃない。あなたはお風呂が先！」 「へーい」 　脱衣場で制服を脱ぐと、何かが床に転がった。 「あ……指輪か」 　想に渡したのと全く同じデザインの、キラキラなブルーの飾りがついている指輪に、自然と頬が緩む。 　想が、もらってくれた。ポケットにしまってくれた。嬉しいぜ！ 　洗面台に置いて、湯船にドボンと勢いよく飛び込んだ。 　俺の想への思い……これでますます加速しそうだ！ 　 ＊＊＊＊ 「ただいま」 「想、今日は随分遅かったのね」 「うん、後夜祭だったから」 「そうだったわね。着替えてらっしゃい」 「はい」 　自分の部屋に戻って、僕はすぐに机の引きだしから古い缶を取り出した。 　これは僕の宝箱。 　幼い頃に駿から分けてもらったカードゲームやスーパーボールなど、懐かしい思い出が詰まっている。 　開けるのは久しぶりだ。 　 　8歳の時……生まれて初めて『転校』というものを経験した。とても緊張したが、席が隣だったのが縁で、駿に話し掛けてもらえてうれしかった。 　駿はいつも眩しい存在だよ。今も昔も変わらずに。 　缶の中にそっと指輪をしまった。 　ころんと一つだけ転がった指輪に、駿が落とした指輪を思い出す。 　あれって同じものだったよね。もしも男女だったらペアリング？ 　でも、僕と駿とでは変だよね？ 　 　それでも駿が僕に指輪をくれたことが嬉しかった。 　僕を大切にしてくれるのが、嬉しいよ。 　よく分からない、ふわふわとした気持ちは、きっと滅多に見ない熱い炎を直に見たせいだ。今になって顔が火照るのは、あの炎の残像のせいだ。 　二人で見上げた火柱は、夜空を情熱的に染めていた。 　何度思い出しても、とても不思議な時間だった。 　あの時の駿の照れ臭そうな顔を何度も思い出すのは、何故だろう。 　何かが芽生え、何かが煌めいている。 　その晩は、どうしたってなかなか寝付けなかった。 　箱の中の宝物が気になって――