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指輪の行方 5
二つの指輪が、いつかまた仲良く並ぶ時が来るといいな。
湯船に浸かりながら、そんな馬鹿みたいなことを考えてしまった。
そんなの夢物語か。
「うわぁ~ これキレイー! お兄ちゃん、もらっていいの?」
「あっ、駄目だ!」
「ケチー きゃー! そんなカッコで出てこないでよ~」
「うるせっ、タオル、巻いてんだろ!」
三歳下の妹から指輪を奪い取り、自分の部屋に駆け込んだ。
どこに置こう? そうだ!
本棚の一番上に置いた。
願いが叶う日なんて、来ない可能性の方が高いのかもな。
あれ? 俺、こんな弱気だったか。
やっぱり望みを捨てきれないから、一番高い所へ置こう!
もしもさ、もしも……俺が想に「好きだ」と告白したら、どうなるかな?
普通は恋愛って、女の子とするもんだろ? だから、そんなことしたら、真面目で礼儀正しい想を驚かすだけだよな。
でも……俺の想に抱くこの気持ちは、絶対に『初恋』だ。
想との距離、ただの幼馴染みを越えられる日が来るといい。
自然に近づいて寄り添えたら……どんなにいいだろう。
焦らず、焦らずいこう。
自分の気持ちに手綱を引かないと、とんでもない爆走をしてしまいそうだ。
落ち着け、落ち着け。
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「お母さん、おはよう」
「あら、想、目が赤いわね」
「え? そ、そうかな」
「夜遅くまで勉強したのね。偉かったわね」
「え……」
駿にもらった指輪の行方が気になって眠れなかったなんて、お母さんには言えないな。そもそも駿と僕は男同士なのに……どうして昨日から胸の奥がドキドキするのか、分からない。
「それとも、文化祭で何かいいことあった?」
「え? な、何も――」
「ふふっ、私が想くらいの時は、毎日ときめいていたのに」
「トキメクって?」
「こう、胸の奥がドキドキするの。その人のことを考えると」
「……そうなんだね」
「やだ、息子と恋バナするなんて」
「……誰もいないけど」
「そっか、可愛い彼女さん、出来るといいわね」
複雑な気持ちだった。
僕がドキドキする相手は、幼馴染みの駿だ。
いくら物わかりの良い母でも、この場では言えない雰囲気だった。
「……行ってきます」
「あら、もうこんな時間ね。いってらっしゃい」
交差点まではモヤモヤした気持ちを抱えていたが、駿の爽やかな笑顔を見つけたら元気が出た。
「想! おはよう」
「駿、おはよう」
「なぁ、宿題、終わった? 俺爆睡しちまった」
「あ……昨日、学校で終わらせたから」
「えー、ずるい!」
「くすっ、学校に着いたら教えてあげるよ」
「やった! 想、天使!」
いつもの朝、いつもの会話に安堵した。
僕たち、まだ17歳。
今はこんな風に、毎日を楽しく明るく過ごしていきたいんだ。
今は、今だけだから。
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指輪の行方は、まだ互いの心の中。
指輪の行方 了
あとがき(不要な方は、以下飛ばして下さい)
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はじめましての方もいらっしゃるかも……なので、この辺りでご挨拶をさせてください。普段は長編ばかり書いている志生帆 海といいます。
お気に入りに入れて下さり、リアクションで応援ありがとうございます。
久しぶりの新連載なので励みになっています。
この『今も初恋、この先も初恋』は、現在……高校生編。じれったく、思考回路もぐるぐるな若い二人。この後も甘かったり切なかったりの繰り返しですが、それが初恋の甘酸っぱさ、醍醐味だと思って書いています。
ただ、こんな展開が続くと、もどかしく感じる方も多いのでは?
ちゃんと彼らもこの後グイグイ成長していくので、お楽しみにです。
ちなみにこの物語は、他サイトで5000文字で完結済みの短編を思いっきり膨らませて書いています。サクッと流れが知りたい方は、こちらからどうぞ。https://fujossy.jp/books/23577
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