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指輪の行方 5

 二つの指輪が、いつかまた仲良く並ぶ時が来るといいな。  湯船に浸かりながら、そんな馬鹿みたいなことを考えてしまった。  そんなの夢物語か。 「うわぁ~ これキレイー! お兄ちゃん、もらっていいの?」 「あっ、駄目だ!」 「ケチー きゃー! そんなカッコで出てこないでよ~」 「うるせっ、タオル、巻いてんだろ!」  三歳下の妹から指輪を奪い取り、自分の部屋に駆け込んだ。  どこに置こう? そうだ!  本棚の一番上に置いた。  願いが叶う日なんて、来ない可能性の方が高いのかもな。  あれ? 俺、こんな弱気だったか。  やっぱり望みを捨てきれないから、一番高い所へ置こう!  もしもさ、もしも……俺が想に「好きだ」と告白したら、どうなるかな?  普通は恋愛って、女の子とするもんだろ? だから、そんなことしたら、真面目で礼儀正しい想を驚かすだけだよな。  でも……俺の想に抱くこの気持ちは、絶対に『初恋』だ。  想との距離、ただの幼馴染みを越えられる日が来るといい。  自然に近づいて寄り添えたら……どんなにいいだろう。  焦らず、焦らずいこう。  自分の気持ちに手綱を引かないと、とんでもない爆走をしてしまいそうだ。  落ち着け、落ち着け。 **** 「お母さん、おはよう」 「あら、想、目が赤いわね」 「え? そ、そうかな」 「夜遅くまで勉強したのね。偉かったわね」 「え……」  駿にもらった指輪の行方が気になって眠れなかったなんて、お母さんには言えないな。そもそも駿と僕は男同士なのに……どうして昨日から胸の奥がドキドキするのか、分からない。 「それとも、文化祭で何かいいことあった?」 「え? な、何も――」 「ふふっ、私が想くらいの時は、毎日ときめいていたのに」 「トキメクって?」 「こう、胸の奥がドキドキするの。その人のことを考えると」 「……そうなんだね」 「やだ、息子と恋バナするなんて」 「……誰もいないけど」 「そっか、可愛い彼女さん、出来るといいわね」  複雑な気持ちだった。  僕がドキドキする相手は、幼馴染みの駿だ。  いくら物わかりの良い母でも、この場では言えない雰囲気だった。 「……行ってきます」 「あら、もうこんな時間ね。いってらっしゃい」  交差点まではモヤモヤした気持ちを抱えていたが、駿の爽やかな笑顔を見つけたら元気が出た。 「想! おはよう」 「駿、おはよう」 「なぁ、宿題、終わった? 俺爆睡しちまった」 「あ……昨日、学校で終わらせたから」 「えー、ずるい!」 「くすっ、学校に着いたら教えてあげるよ」 「やった! 想、天使!」    いつもの朝、いつもの会話に安堵した。  僕たち、まだ17歳。  今はこんな風に、毎日を楽しく明るく過ごしていきたいんだ。  今は、今だけだから。 ****  指輪の行方は、まだ互いの心の中。                            指輪の行方 了 あとがき(不要な方は、以下飛ばして下さい) **** はじめましての方もいらっしゃるかも……なので、この辺りでご挨拶をさせてください。普段は長編ばかり書いている志生帆 海といいます。 お気に入りに入れて下さり、リアクションで応援ありがとうございます。 久しぶりの新連載なので励みになっています。 この『今も初恋、この先も初恋』は、現在……高校生編。じれったく、思考回路もぐるぐるな若い二人。この後も甘かったり切なかったりの繰り返しですが、それが初恋の甘酸っぱさ、醍醐味だと思って書いています。 ただ、こんな展開が続くと、もどかしく感じる方も多いのでは? ちゃんと彼らもこの後グイグイ成長していくので、お楽しみにです。 ちなみにこの物語は、他サイトで5000文字で完結済みの短編を思いっきり膨らませて書いています。サクッと流れが知りたい方は、こちらからどうぞ。https://fujossy.jp/books/23577    

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