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ただ、触れたくて 1

 後夜祭で想に指輪を渡したからって、俺の密かな想いに気付かれることはなかった。  やがて季節は秋から冬へ移ろいだ。  俺はサッカー部、想は天文部。    俺は副キャプテンなので忙しく、想は塾とかけもちだったので、一緒に帰ることが、すっかりなくなってしまった。  だから久しぶりに下駄箱前で想を見かけた時は、ドキリとした。  数ヶ月で、また少し大人っぽくなったような。    俺は想の横顔が好きだから、遠目から、じっと見つめてしまった。 (好きだ、好きだ、想――)  暫くギュッと蓋をしていた気持ちが、鮮やかに蘇る。 「おーい駿、何ボケッとしてんだ? 腹減った~ 寄り道しようぜ」 「……いや、今日は真っ直ぐ帰る!」 「そう? じゃ、また明日な-」  部活のメンバーと別れて見回すが、想の姿が見えなかったので、慌てて追いかけた。 「想!」 「あ……駿……」 「想は今、部活、終わったのか」 「あ、うん、今日はちょっと遅くなって……駿も?」 「あぁ……」 「……今日は冷えるね」 「あぁ……」  くそっ、意識し過ぎて、隣を上手く歩けない。  久しぶりに肩を並べても、曇り空のように押し黙る帰り道だった。  こんなの俺らしくない、もったいない!  この凍てつく沈黙を破りたい!  心の中で叫ぶと、そんな願いを後押しするように、空から粉雪がちらちらと舞ってきた。 「あ、雪だね」 「だな。なぁ、雪の結晶って、本当に肉眼で見えるのか」 「見えるよ。でも……今日の雪はどうだろう?」 「じゃあ、見てくれよ」  俺が手の平に雪をのせて見せてやると、想がそっと指先で雪を摘まむ仕草をした。 「……とけちゃうね」  手の平にのせれば、想が優しく触れてくれるのが嬉しいのに、指先の温もりで雪がとけてしまうのが寂しいなんて。  未だ掴みきれない想の心を掴みたくて、俺は繰り返し、空へと手を伸ばした。 ****  最近、駿と会っていない。  朝は朝練で早く出てしまうし、帰りは部活が忙しそうだ。  僕のこと……忘れてしまったの?  そんな寂しい想いが募って募って、溜まらずに、今日は部活が終わってもすぐに帰らなかった。  駿に見つけて欲しくて……  下駄箱で待っていると、駿達サッカー部のメンバーが賑やかに降りてきた。  爽やかな駿は、中心で目立っていた。  やっぱりお邪魔だよな、忙しいよな……そう思い、見つかる前に外に出た。  とぼとぼと……残念な気持ちを抱えて歩いていると、驚いたことに駿が追いかけてきてくれた。  僕、あの指輪をもらってから、少しだけ変なんだ。  なんて言ったら、駿に引かれてしまうよね。  せっかく会えたのに会話が続かないよ、困ったな。  そんな僕の気持ちを助けるかのように、空から雪が降って来た。 「あ、雪……」 「雪の結晶見えるかな? 想、ここ、見てくれよ」  駿が手の平に雪をのせて見せてくれる。    濃紺のコートについた雪の方が肉眼で結晶を見つけやすいのは知っていたが、僕は駿の手に触れたくて――  指先で雪を掴むと、当たり前だが、雪は僕の温もりで解けていく。 「ほら、もう一度」 「うん」  小さい頃はよく仲良く繋いでいたよね。  僕たちは幼馴染みだから。  駿の……この手に触れるのは、いつぶりだろう。  名残惜しくて、僕は何度も何度も手を伸ばした。  駿に、ただ……触れたくて――

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